いま、エレベーターの重大事故が相次いでいる。今年だけでも、新宿と姫路で死亡事故、神戸で重傷事故が起きている。さらに、負傷者を出すに至らないトラブルにいたっては、毎月500件近くも報告されているという。

 しかし、原因が究明されないケースも多く、同じような事故が繰り返されてきた。一体なぜなのか。エレベーターなどの事故について、原因究明と再発防止対策がどう行なわれているか、実態に迫った。

事故から3年後にようやく送検
捜査が長期化したワケ

 取材班は、1つの事故を徹底的に追跡した。3年前の6月3日、東京港区の区営のマンションで起きた事故。当時高校2年生だった市川大輔さんがエレベーターを降りようとした時、エレベーターの扉が開いたまま突然上昇、天井との間に挟まれ亡くなった。

 扉が開いた状態で走行するのは極めて危険で、事故はエレベーターの安全を根底から覆すものだった。大がかりな捜査態勢を敷いた警察はもちろん、マンションの管理者である港区も約2億円の巨費を投じて独自調査に乗り出す異例の展開となった。しかし、警察の捜査は長期化、書類送検は事故から3年近く経過した今年3月だった。また、港区の調査も頓挫、今も最終報告書を書けないままだ。なぜこうした結果に終わってしまったのか。

 日本では、鉄道や航空機などの事故を除けば、事故原因の究明で最も期待されてきたのは警察の捜査だ。人員や予算、機動性など、警察の調査能力はずば抜けている。しかし、それはあくまで犯罪を立件するためのもの。事故の再発防止を図るための原因究明という点では限界があり、捜査で得た貴重な情報が安全対策に十分活かされないという課題を持っている。

 港区の事故で、警察捜査の主な対象となったのは、エレベーターのメーカー、シンドラー・エレベータ社と、保守点検を担っていたエス・イー・シーエレベーター社。膨大な資料が押収され、多くの関係者から証言が集められ、事故発生から3ヵ月後に事故のメカニズムは把握されていた。

 問題はエレベーターの停止状態を保つブレーキの異変だった。何らかの理由でブレーキを駆動させる電磁コイルに異常が起き、半ブレーキの状態で運転が続いた結果、ブレーキパットが摩耗、停止状態を保つことができなくなったと見られた。

 業務上過失事故の捜査では、事故について個人の責任=過失を明らかにする必要がある。そのために必要なのは、事故の危険性が予見できたかどうかだ。しかし、電磁コイルの場合、過去同じような異常は起きていないことが判り、予見は難しいと見られた。

 また警察は、ブレーキの安全対策にも注目していた。事故が起きたブレーキは、ブレーキパッドがある程度摩耗すると、効きが悪くなる構造だった。そうなった場合に暴走を防ぐ、予備のブレーキ、ブレーキの2重化などの対策がとられていなかった。

日本で見逃されてきた
2重ブレーキの重要性

 事故が起きたエレベーターを作ったシンドラー社は、世界第2位のエレベーターメーカー。2重のブレーキがついたエレベーターを世界各地で販売している。