「追突前に自動で停車してほしい」。そんなドライバーの願いがついに実現した。富士重工業は5月、運転支援システム「アイサイト」にクルマを自動で減速あるいは完全停止させて前方衝突を回避する機能を追加し、「レガシィ」シリーズに搭載する。乗用車の高速運転時にも作動する機能は“世界初”だ。仮に市場の全車に搭載された場合、追突死傷者8割減の効果が期待できるという。
今まで実現しなかった背景には、国土交通省が定める技術指針による制限があった。自動ブレーキはドライバーの過信を招きかねず、「減速」は認めても「完全停止」には慎重だったのだ。一方で近年、停止技術の精度が高まるにつれ、世界的に「衝突前に止められるならば、自動でも止めたほうが安全」という考え方が強まっている。
低速域での自動停止を欧州で実用化させた欧州メーカー勢は、日本でも市場導入を求めた。日系勢も要請し、これらを受けて国交省は昨年5月、「当面は低速域(時速30キロメートル以下)に限定する」という条件で搭載を認め、指針を改正。一部欧州メーカーが搭載を始めた。
さらに今年1月、高速域でも問題ないと判断され、速度制限を撤廃する改正が実施された。いずれの改正でも「急ブレーキ」と「前方車との距離1メートル以内での停止」が条件とされ、ドライバーに恐怖感を持たせることで過信の抑制を図った。
富士重工は2008年にアイサイトを採用したが、年間搭載実績は約1600台。レガシィの国内販売台数の1割にも満たない。新型アイサイトは従来の半額となる10万円に設定し、レガシィ販売台数の3割、つまり1万台規模への搭載を計画する。「将来はエアバッグ並みに普及させたい」と野沢良昭・電子技術部担当部長。「環境技術とともに安全技術も日系メーカーの強みで、勝負どころ」とし、技術進化もさらに進める。
ただ、メーカー個々の技術革新には限界がある。飛躍的な高度化にはクルマ単体ではなく、他のクルマと情報をやりとりする車車間通信、さらには道路交通システムが前方障害物情報をクルマに提供するような車路間通信の開発が欠かせない。技術指針での対応にとどまらない国の政策が、環境技術同様に安全技術でも問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)