南シナ海が何かと騒がしい。沿岸各国の対立が増し、一躍緊張の海になった。この状況下、東シナ海に関わる日本の対中政策も影響を受けざるを得ない。

 排他的経済水域の確定と、資源開発の分担を巡って、東シナ海には日中間に係争がある。

 2008年、両国は正式の書面を取り交わし、解決へ向け踏み出したはずだったが、その後中国のサボタージュを原因とし、状況は1インチも動いていない。

中国が次々繰り出す新手の戦略とは

 ここへきて北京は、改善へ向け歩みを始めるに必要な動機を、もはや感じているとは思えない。南シナ海で攻勢に転じた中国が、そのすぐ北の海(東シナ海)でだけ、こともあろうに日本に対し平和そのものの顔を見せるわけにはいかないだろうからだ。

 南沙、西沙諸島を巡る南シナ海沿岸諸国の対立は、2002年、互いに行動宣言(後出)を合意し合って棚上げになったと、近年思われてきた。米国人中国専門家の中にはこれを受け、北京の善隣友好姿勢の表れだとして高く評価しようとする向きがあった。

 ところが漁業資源、海底地下資源ともに豊富であるのみならず、東アジアの洋上輸送路(シーレーン)を掌握するため戦略的に重要な意味を持つ問題海域への進出に、中国はこのところ新手を繰り出しつつある。

 新手というのは、旧来の軍事力に加え、リゾート観光産業と人口圧力を戦略的に用いようとする、一種意表をつく手段だ。

海南島

 すなわち今や超バブリーなリゾート・アイランド化しつつある海南島を拠点とし、南沙、西沙方面に、海の休暇を楽しむ人々を大挙押し出す方策を指す。

 中国人船客が問題水域を連日往来し、上陸できる環礁を常に訪れ人口的圧力を及ぼす状態が生まれれば、主権を巡る力学を、次第に中国優位へ傾かせられるのではないかという計算がある。

 ――と、少なくともベトナムは見て取り、神経を尖らせている。