長期化の様相を見せる米国と中国の覇権争いはどこへ向かうのか。特集『総予測2023』の本稿ではこの経済的帰結について、米国を代表する経済系シンクタンクであるピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長を直撃。すると米中デカップリング(分断)が進むことによる「意外な余波」の存在が浮き彫りとなった。さらに、かつてイングランド銀行の金融政策委員を務め、知日派の論客として知られる同氏に日本銀行の金融政策について聞くと、賃上げとの関係を巡る興味深い提言が明かされた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
2023年の世界経済3大リスクとは?
複数の途上国では経済崩壊も!
――2023年の世界経済最大のリスクは何だと考えますか。
災害やパンデミックなど、明らかに他を圧倒するような要素を除けば、私が考える23年の大きな経済リスクは三つあります。
一つ目は、ロシアや中国が、ウクライナや台湾、南シナ海などで地政学的な紛争を激化させることです。起こり得ないことだとは思いますが、特に中国がもしそんな行動に出た場合、経済的な悪影響は非常に深刻なものとなります。
二つ目は、予想外に米国のインフレ率が上昇を続けることです。そこでFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げを継続していなければ、金融市場は短期的にパニックに陥る恐れがあります。その場合、FRBは再び利上げを加速させるでしょうが、そうなれば急激な不況を引き起こしかねません。
三つ目は、幾つかの発展途上国で経済が崩壊するリスクです。これに伴う世界経済全体への影響は小さいでしょうが、大規模な移民など人的混乱が発生しかねません。これらは金融市場でドルや金利が上昇する中、途上国の債務問題に端を発する可能性が考えられます。
―― 一つ目の地政学リスクに関連する、米国と中国の覇権争いは長期化の様相です。世界経済にどんな影響を与え得るでしょうか。
この問題では従来、貿易面が注目されてきました。ただ、実は米中のデカップリング(分断)では、テクノロジーや投資の側面の方がはるかに大きな影響を及ぼします。
足元では半導体産業に関心が集まっていますが、私はむしろ半導体は非常に特殊な分野だと考えています。重要物資であるのみならず、製造に関わる企業が日本や韓国、台湾など世界でも非常に限られるからです。米国と協力関係を築きやすい国々ともいえます。
ですが、ほとんどの産業は、そうした少数プレーヤーに支配されてはおらず、中国やその他地域での生産が必要です。より多くの競争相手を持つわけです。そして企業や投資家は、地政学的な問題に対し、次第にリスク回避姿勢を強めていくことも考えられます。
インフレよりも心配な米中デカップリングの「意外な余波」とは? 中央銀行問題の世界的泰斗である知日派の論客、ポーゼン氏が明かした日本銀行への提言とは?次ページでは、同氏がダイヤモンド編集部に語った一連の回答を一挙に開陳する。