9月11日に増床オープンする銀座三越は、“香り”を一つの売りにする。
1階の正面入り口(銀座4丁目交差点角のライオン口)付近が香水売り場になるのだ。入り口付近に香水売り場を置くのは、日本の百貨店では初の試みという。特徴は、聞きなれない“メゾンフレグランス”の集積である。
日本の香水市場は、ブルガリやグッチ、クロエといった海外の有名ブランドを冠したファッションフレグランスと呼ばれるものが主流だ。これに対して、メゾンフレグランスは、主に香水文化が発達しているヨーロッパの香水専門業者が製造している。日本の百貨店での取り扱いは少なく、他の小売り店でも多数ブランドを集積するケースは珍しい。
理由はいくつかある。まず、天然香料を使用するため、原料が高く生産量が少ないこと。また、メーカー側のブランド戦略で、販路を路面店などに限定し、百貨店にはほとんど流通しなかったことがある。販売価格が1万5000~2万円と、ファッションフレグランスの2倍ほどすることもネックだった。
今回は、銀座4丁目交差点という好立地店の中でも、さらに正面入り口付近という一等地に並べることを武器にブランドを誘致。メゾンフレグランス10ブランドで200商品を集めることに成功した。
入り口に香水売り場という異例の試みは、三越社内でも侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が繰り広げられた。百貨店の化粧品売上高における香水のシェアは、わずか3~5%にすぎない。他の商品を押しのけて、競争率の高い売り場を確保できたのには、試験販売がモノをいった。
じつは、銀座三越では、昨年11月に宣伝告知はいっさい行わずに、この香水売り場を1週間だけ試験的に設置したのだ。
「日本の香水市場は、まだまだファッションフレグランスが主流。予想では8対2の割合で、ファッションフレグランスが売れると見ていた」(染谷信子・三越銀座店化粧品担当バイヤー)。ところが、ふたを開けてみると「6対4の割合で、メゾンフレグランスのほうが売れた」。百貨店側の予想以上に、銀座エリアでは希少性の高い商品への潜在需要があったということだ。この結果を受けて、メゾンフレグランス主体の香水売り場が実現する運びとなった。
化粧品・美容ビジネスの週刊専門紙「WWDビューティ」の都築千佳編集長は、「これまでの百貨店にはない試みだが、銀座という立地だからこそ実現できる売り場」と話す。
三越伊勢丹ホールディングスの石塚邦雄社長は、「百貨店は終わったといわれているが、自主編集の比率を高めて百貨店のあるべき姿を提示したい」と言う。今回の香水売り場は、同グループが目指す方向性の具現化の一つである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)