「関西の電鉄系不動産会社には、積極的に首都圏でマンション開発してもらいたい」と語るのは、首都圏のある中堅ゼネコンの幹部だ。
マンション建設を担うゼネコンが期待するのも無理はない。
最近、首都圏では、近畿日本鉄道や阪急電鉄、京阪電気鉄道など関西の電鉄系不動産会社による分譲マンションの開発が目立ち、存在感を発揮しつつあるからだ。
そのマンションの多くは、郊外型で価格5000万円以下のファミリータイプ。在京の不動産会社との共同事業で、戸数も100戸以下が大半である。
だが、昨年末以降は単独事業も増え始め、なかには、神奈川県川崎市の「ジオ梶が谷」(阪急)のように「話題のシステムキッチンを備え、内装に工夫が行き届いている」(住宅評論家の櫻井幸雄氏)と専門家をうならせる物件や、東京都千代田区の「ローレルアイ 千代田淡路町」(近鉄)のように、駅から2分という好立地の物件もある。
実際、近鉄不動産、阪急不動産、京阪電鉄不動産と関西の電鉄系3社による販売棟数を見ても、2008年の6物件から、09年12物件、10年は14物件と増えており、「急増とはいえないが、様子を見ながら着実に事業基盤を築いている印象」(中山登志朗・東京カンテイ市場調査部上席主任研究員)だ。
たとえば、05年から首都圏でマンション販売を開始した京阪は、現在、首都圏で七つの物件(うち3物件が単独事業)を計画中であり、首都圏での比率は現在の3割から、将来的には5割程度まで増える見通しという。
では、なぜ、関西の電鉄系不動産会社が首都圏でのマンション開発を増やしているのだろうか。
まず、関西でのマンション市況の回復の遅れが原因だ。
不動産経済研究所によると、10年上半期(1~6月)の販売戸数を見ると、首都圏が対前年同期比27.0%増(1~9月は23.5%増)に対し、近畿圏はわずか0.7%増にとどまっていた(同14.4%増)。
加えて、かつて首都圏で割安な郊外型のファミリータイプを販売していた中堅業者が激減し、競合先が減ったという理由もある。
08年のリーマンショック以前には、約550社あったマンション開発会社は現在では約160社まで減った。「かつて販売戸数は大手不動産会社6社に比べ、中堅業者のほうが約2倍も多かったが、現在では大手6社のほうが多くなりつつある」(福田秋生・不動産経済研究所取締役企画調査部長)。
当然ながら、工事を請け負うゼネコンの受注機会は減っている。
関西の電鉄系不動産会社は、親会社の安定した財務基盤と信用力が絶大。取引先としては申し分ないだけに、冒頭のコメントのような期待の声は少なくない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)