「有能な平社員が昇進を続けていると、やがて無能になる」という有名なピーターの法則があるように、出世したら「足りないものをどう補うか」と考えることが、これまでのビジネス社会のスタンダードな考えだった。しかし、ポジティブ・サイコロジーの研究をする産業医の海原純子氏によると、この考え方は時代遅れだと言う。ジャーナリストの笹井恵里子氏が聞いた。(心療内科医・産業医 海原純子、構成/ジャーナリスト 笹井恵里子)
「欠けているものを補う」
というスタンスは時代遅れ
「昇進」の話が来たとき、あなたはこれからどのように仕事に取り組んでいきたいと考えるでしょうか。
ビジネスパーソンの方は、教育学者ローレンス・J・ピーターが提唱した「ピーターの法則」をご存じの人も多いと思います。能力主義の階層社会では人は能力の極限まで出世するため、有能な平社員が昇進を続けていると、やがて無能になるというもの。
ですから昇進した先には今までやっていた仕事と別の能力、つまり新たなスキルが必要とされることを認識し、自分がどの程度その能力、環境に適応できる柔軟性があるのかを見極めなければならない。そして「足りない場合は、どう補うか」を考える。それがこれまでのビジネス社会のスタンダードな考えでした。
しかし、この“欠けているものを補う”というスタンスは時代遅れだと近年感じるのです。
1990年代後半より広まり、今最も新しいとされる米国の心理学の領域に「ポジティブ・サイコロジー」というものがあります。ウェルビーイング、すなわち気持ちを健やかに保ち、より良く生きるための方法を科学的に検証するという発想から生まれました。私自身もそれを研究しています。
今年12月の初め、ポジティブ・サイコロジーの医学会が開かれ、海外の研究者も参加して活発な討論が行われましたが、「日本の企業や管理職は、ある種の枠から飛び出せない」という話になりました。
日本ポジティブサイコロジー医学会では、もっと自分の「強み」を見つけて、それを生かしていくという姿勢が、個人や企業のいいバランスを作ると考えます。