日本のビールメーカーが国内でシェア争奪戦を繰り広げているあいだに、世界市場における勢力図は激変した。96年以降、欧州、南米などで買収攻勢に乗り出し、04年に販売量世界一となったベルギーのインベブは昨年には5兆円を投じて、米国最大手のアンハイザー・ブッシュを買収。ライバルの英SABミラー、ハイネケン(オランダ)とカールスバーグ(デンマーク)の企業連合も買収合戦を繰り広げ、今ではこの上位3グループが世界市場で6割のシェアを握る状況だ。
国際再編から取り残された大手4社は、キリン、アサヒでさえ、世界市場で見れば中堅程度にすぎず、中国に代表される成長市場を海外大手にがっちり押さえられてしまった。まさしく携帯電話と同じで、国内市場だけに特化して競争を繰り広げるうちに世界から取り残されるガラパゴス化が進んでしまったのだ。
清涼飲料についても同じことがいえる。右肩上がりの成長を続けてきた国内市場が頭打ちになるなかで、業界各社は相変わらずの乱売合戦に明け暮れ、疲弊している。売上高9兆円のネスレ(スイス)、ペプシコ、コカ・コーラが世界市場を席巻しているが、国内勢はいっこうに海外に活路を見出せない。
だからこそ、キリンは7500億円を投じ、脱ビール、脱日本の布石を矢継ぎ早に打ってきた。国内では医薬などの多角化を進め、海外では大手の影響力が及んでいないアジア・オセアニア地域のビールや乳業メーカー買収に突き進んだ。酒類事業で得られた利益を乳飲料事業や海外に振り向けたことで、キリンの売上高に占める酒類事業比率は51%にまで下がり、海外売上高比率3割以上達成も射程内にある。
サントリーも昨年、ニュージーランドの飲料メーカーを買収するなど、M&A攻勢をかける構えを見せていた。狙いはキリンとまったく同じである。
しかし、海外でネスレ、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、コカ・コーラといった食品メジャーと伍して戦うには、キリン、サントリーといえども経営基盤が盤石とはいえない。
国内市場縮小に対する危機感、海外市場に本格参戦する決意が、加藤社長、佐治社長の背中を押したのである。