あらゆるプロダクトやサービスに「体験の質」が問われるようになった今、「デザイン」なくしてイノベーションを創出するのは難しい。11月20日、シリーズセッション「デザイン経営の現在地」(主催:SPBS THE SCHOOL、Takram、ダイヤモンド社)の第4回が「イノベーションとデザイン経営」をテーマに開催された。経営の真ん中に「デザイン」を据えて成長を続ける2社の事例から、イノベーションに貢献するデザインの在り方を議論した。(取材・構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
デザイナーが生んだこれまでにない顧客体験
セッションのコーディネーターはTakram代表の田川欣哉氏、一橋大学大学院経営管理研究科教授の鷲田祐一氏。ゲストスピーカーは、SANU(サヌ)のファウンダー・ブランドディレクターの本間貴裕氏、メルカリの執行役員CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)の成澤真由美氏だ。セッションの冒頭では、まずゲストスピーカーの両氏が携わる事業の概要が紹介された。
(1)人間と自然の関係を変えるセカンドホーム――SANU・本間貴裕氏
SANUは、<Live with nature./自然と共に生きる。>という理念を掲げて2019年に創業した。翌20年に「自然の中のもう一つの家」として、まずはセカンドホーム(シェア型別荘)をサブスクリプションで利用できる会員制サービス<SANU 2nd Home>をローンチ。“自然の中での暮らし”を手軽に始められる“もう一つの家”として、自然と調和する約50平方メートルの木造建築<キャビン>など4モデルの別荘を中心に、計162棟を全国28拠点で展開する。
「創業の原点に『自然が好き』という思いがあるので、自分たちのビジネスを広げることで自然を汚したくない。SANUが広がるほどに海も山も川も豊かになることを理想に、環境にダメージを与えない施工や解体しやすい仕組みを取り入れながら拠点を広げています」(本間氏)
(2)お金の自由な循環を促すスマホ決済サービス――メルカリ・成澤真由美氏
フリマアプリ大手のメルカリは、17年に金融事業をドメインとする子会社・メルペイを発足させた。成澤氏は18 年に入社し、スマホ決済サービス「メルペイ」の立ち上げにデザイナーとして携わった後、フィンテック領域の数々の体験設計をリード。現在では執行役員CXOとして経営陣に加わり、<あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる>というグループミッションに沿った顧客体験を統括する立場に立っている。
「金融領域で扱うデザインオブジェクトは基本的に数字ばかり。その中で、いかにユーザーの情緒を引き起こし、人の可能性の最大化に貢献できるか。濃密なディスカッションを重ねてメルペイやメルコインのプロダクトを作り上げてきました」(成澤氏)