米国金融当局は自らの大きな誤算ゆえに、禁じ手としてきた公的資金投入の示唆に追い込まれた。
7月11日金曜、米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)、米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の経営不安から、ダウ平均は一時、1年11ヵ月ぶりに1万1000ドル台を割り込んだ。
両社破綻となれば、両社が発行する債券、民間から買い取った住宅ローン債権を基に組成されたMBS(不動産担保証券)、さらにそのMBSを組み込んだ証券化商品を保有する金融機関などが損失を被る。金融不安再燃は不可避だ。
余波が及ぶのは金融機関だけではない。「フレディマックの債券を66の中央銀行が保有している」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)というように、海外の中央銀行等が両社の債券を含むエージェンシー債(連邦機関債)を外貨準備として大量に保有する。たとえば、中国は2007年6月末時点で3763億ドル保有しており、大半が外貨準備と見られる。こうした外貨準備が毀損すればドルの信認が揺らぐのは間違いない。このまま週明けを迎えれば主要市場の株価急落だけでなく、ドル急落も確実だった。
危険を察知した当局の動きは素早かった。14日月曜の東京市場が開く直前の米国東部時間13日夕刻に、財務省とFRB(米連邦準備制度理事会)は両社への支援に関する緊急声明を発表。そのなかで、財務省は両社への融資枠拡大と、必要ならば出資によって株式を一時保有することを表明した。
一見手際のよい対応に思えるが、じつは誤算ゆえの対応だった。
遡ること4ヵ月前、金融不安の渦中にあった3月19日、両社を監督する連邦住宅公社監督局は、両社への自己資本規制を緩和すると発表した。その策には両社により多額の住宅ローン債権を買い取らせることで、住宅ローン縮小に歯止めをかけたいという当局の狙いが込められていた。
この時点で「当局は経営状態に不安は抱いていなかった」(中川隆・大和証券SMBC金融市場調査部次長)のは確実。抱いていれば、損失を拡大させかねないローン買い取り拡大を促すわけがない。
ところが、実際は両社ともサブプライム問題にじわじわと蝕まれていた。2007年通期、2008年第1四半期と赤字の計上が続いた。
そこに、7月7日に出された大手証券会社のレポートがダメを押す。MBSをオンバランス化した場合に大幅な増資が必要との内容が経営への懸念をふくらませるきっかけとなり、両社の株価は下落、11日に市場全体が急落した。
当局は市場の反応を予測し切れなかった。11日時点でもポールソン財務長官は「国有化の必要はない」と公的資金を投入することには否定的だった。市場に追い込まれるかたちで禁じ手を解かざるをえなくなったというのが実情なのである。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田孝洋)