混迷を深めていた社長人事のケリがついたのもつかの間、日本郵政に新たな火種がくすぶり始め、その前途に暗雲が垂れ込めている。
10月28日。日本郵政の社長に就任した斎藤次郎氏が発表した幹部人事のなかに、一人の名前が挙がったことで金融業界は騒然とした。その人の名は高井俊成氏。ゆうちょ銀行の社長含みで、日本郵政の副社長に任命された人物だ。
高井氏は、旧日本長期信用銀行(現新生銀行)出身の63歳。旧長銀時代は、福岡支店長や法人業務部長などを歴任。1998年の経営破綻に伴って、常務執行役員を最後に銀行業界を去った。斎藤社長は、こうした経歴を買い、「バンキングビジネスのトップに最適な方と確信している」と抜てきの理由を語っている。
だが、高井氏の足跡をたどっていくと、そうした理由にいささか首を傾げざるをえない。
2003年3月には、「駿河屋」の架空増資事件で増資を持ちかけたとされる「飯倉ホールディングス」の取締役に就任。その五ヵ月後には、やはり架空増資事件の舞台となった「丸石自転車」の監査役に就くなど、いわく付き企業の経営陣に名を連ねているのだ。
関係者は、「役員経験者は再就職が困難だったこともあり、多額の借金を抱えていた様子。経済的に困窮していたところを誘われたのではないか」と口を揃える。
誰がこうした人物を推挙したのか。事情に詳しい関係者は、鳩山内閣で総務相を務める原口一博氏だと明かす。「同じ佐賀県出身の原口氏が主催する勉強会に参加するなど、親交を深めていたことが縁だった」(関係者)と見られている。
問題は、急転直下のトップ人事で、「身体検査が行なわれていない」とされている点だ。ゆうちょ銀行は、日本郵政の中核会社。高井氏が前記の事件に直接、関与していないとしても、よりいっそうの高潔さが求められる。事態の推移によっては、政府の任命責任さえも浮上しかねない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 郵政問題取材班)