
イノベーションは社会に大きな効能をもたらす一方で、職にあぶれる人を生み出し、格差も拡大させる。イノベーションを促進させるのと同時に、格差是正を考えることも必要だ。格差是正に対し、どう対処すべきなのか。※本稿は、清水洋『イノベーションの科学 創造する人・破壊される人』(中公新書)の一部を抜粋・編集したものです。
経済成長がなければ
パイの取り合いになる
政府がイノベーションを促進する最も大きな理由は、それが経済成長の源泉だからです。経済成長の源泉は簡単に言えば、労働の投入量、資本投入量、そしてイノベーションの3つの要素です。日本では少子化のため、労働投入量が今後大きく増える見込みはなく、資本の投入量も減っています。だからこそ、イノベーションが経済成長の源泉としてますます大切になってきます。
「いやいや、いまさら経済成長を目指さなくても良いのでは」と感じる人もいるかもしれません。確かに、私たちは幸せに暮らすことが何より大切です。ただ、幸せに暮らすための原資として、ある程度の経済成長は必要です。
もしも経済成長がなければ、新しい課題を解決しなければならない時にとても困ります。なぜなら、これまでに分配されていた人やお金などの資源をどこかで削らなくてはならないからです。そうすると起きることが、パイの取り合いです。
民主主義では再分配の問題は選挙を通じて政治的に解決されるのですが、それぞれの立場の人が必死に取り分を確保しようとするなかで、優先順位をつけなければなりません。これが大変です。経済が成長していれば、成長したパイで新しい課題に取り組むことができるので、このようなパイの取り合いは比較的起こりにくくなります。
イノベーションなくして
今の当たり前の生活はない
さらに、イノベーションは生活を便利にしてくれます。今、私たちの生活にとって当たり前となっているものは、誰かがつくったイノベーションです。列車や自動車、飛行機はわれわれのモビリティを大きく変えました。冷蔵庫やミシン、電子レンジ、コンピューターやインターネットなど、もうそれらがない暮らしには戻れないほどです。