「うつ」でも、単に落ち込んでしまう状態だけでなく、イライラや怒りっぽさが現れてくることがあります。
そこで今回は、そのような状態のからくりや意味について考えてみたいと思います。
イライラと自己嫌悪
の悪循環に…
「まったく、ちゃんとマナー守れよな!」
朝の通勤時、Nさんは最近やけに、他人の行動が気になるようになりました。うっかりすると後先考えずに喧嘩でもしかねないピリピリした状態になってしまっているのが、自分でも心配です。
Nさんは、これまでに「うつ」で休職療養をしたこともありますが、今ではある程度回復したので、通院治療を受けながらも、職場には1年ほど前から復帰しています。
ピリピリした状態は、徐々に職場内でも現われるようになってきました。仕事を要領よく押しつけてくる同僚や、よく考えもせずに業務を丸投げしてくる上司に対して、以前にも増して苛立つようになり、近頃では抑えが利かなくなって、時には声を荒げて反発するようにもなったのです。
周囲の人たちが、そんな状態のNさんを奇異な目で見るようになってきていることは、彼自身も重々感じてはいるのですが、どうにも自分でコントロールが利かない状態になってしまいました。
Nさんは、怒りっぽくなってしまった自分を「感情もコントロールできないなんて、最低な人間だ」と思い、すっかり自己嫌悪に陥るようになりました。しかしいくら反省してみても、次の日にはまた同じようにイライラしてしまいます。
「また調子が悪くなってきているのかも知れない……」
このところ寝つきも悪くなってきていて、Nさんは自分の状態がとても心配です。
イライラは
なぜ起こるのか?
Nさんのように、「うつ」の経過中にイライラしやすい状態が現われることは、決して珍しくありません。
「最近、イライラするようになってしまったんです」という言葉をクライアント(患者さん)が口にすると、治療場面においても大抵の場合は、これを「衝動性の亢進」「情動が不安定になった」として、悪化の兆候と捉えられてしまうことが多いようです。
しかし、この状態をどう捉えるのかによって、その後の経過がまったく変わってくるので、私は治療上とても重要な局面だと考えます。
まずは次の【図1】を使って、感情について考えてみることにしましょう。
【図1】感情の井戸 |
これは、私が「感情の井戸」と名づけているものですが、第1回で登場した「頭・心・身体」の図のバリエーションです。
理性の場である「頭」は、「心」との間にある蓋を閉じて、感情のコントロールをしばしば行ないます。