このオフに激震に見舞われたサッカークラブとして、J1のアビスパ福岡が挙げられる。新監督として招聘した金明輝(キム・ミョンヒ)氏のパワーハラスメント歴を巡り、最大のサポーター団体が緊急声明で人事の再考を求め、選定プロセスがクラブの基本理念に反しているとして主要スポンサーが契約の新規更新を見送った。セカンドチャンスを与えるべきなのか。それとも、過去の過ちを引き続き問題視すべきなのか。サッカーを含めたスポーツ界で前例のない騒動をあらためて追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
約600人を前にして発した
金明輝新監督の謝罪の言葉
新シーズンへ向けたクラブ恒例の決起集会で、異例といってもいい言葉が飛び出した。1月18日に福岡市内で開催された「2025 アビスパ福岡 新年感謝の集い」で、壇上に勢ぞろいした選手およびスタッフを代表して挨拶した金明輝新監督は、集まった約600人を前にして次のように切り出した。
「入団に際して、アビスパを愛する方々にたくさんのご心労とご迷惑をおかけしたと認識しています。(中略)福岡のためにすべてを捧げて、しっかりと自分の責務をまっとうしたいと考えています」
開会が間近に迫っていた控え室でも、指揮官は謝罪の言葉を口にしていた。来賓としてスピーチを務めた福岡市の高島宗一郎市長が、金監督と初対面した際のエピソードを明かしている。
「先ほど初めてお会いさせていただいたんですけど、すぐに『すみません』という話になって…」
金監督は何に対して頭を下げているのか。答えは福岡の新指揮官候補として名前が報じられてから、福岡との正式なサインを経て、新体制が発足しても批判が収まらなかった一連の騒動にある。
騒動の幕が開けたのは2024年11月上旬。福岡の監督を5年間務め、J2からの昇格とJ1定着、そして悲願の初タイトルとなるYBCルヴァンカップ制覇をもたらした長谷部茂利氏(現・川崎フロンターレ監督)の後任として、FC町田ゼルビアの金ヘッドコーチが最有力だと一部スポーツ紙で報じられた。