メールで「~してください」を「~して下さい」と漢字で書く人がいます。一見、正しく丁寧な表記に思えますが、本当にそうでしょうか。漢字とひらがなの表記の使い分けにはルールがあり、それを誤ると、意図せず堅苦しくなったり、読みにくい印象を与えたりすることも。「下さい」と「ください」はどちらを使うのが適切なのか。現代語専門家が解説します。 (日本漢字能力検定協会 現代語研究室長 佐竹秀雄)
漢字とひらがな
使い分けの大原則
日本語では同じ語がさまざまに書き表されることがあります。例えば、「ヒトリ」という語は、「ひとり・一人・独り・1人」などと書かれます。これらはいずれも間違いではありません。こういう現象は「表記のゆれ」と呼ばれます。
表記のゆれが生じる原因の1つは、日本語表記におけるルールの不完全さです。しかし、それだけでなく、表記する人によって違うことも、あるいは同じ人でも状況によって表記が異なることもあります。つまり、表記する人や状況に応じて表記は変化するのです。
ここでは、表記のゆれのうち、漢字と平仮名のゆれを取り上げます。漢字と平仮名のどちらでも書かれやすい語があります。例えば、「あいさつ/きのう/くださる/ほしい」などです。
これらのゆれが生じやすい理由を考える前に、漢字と平仮名の役割について確認しておきましょう。次の例文を見てください。
この文を、意味の切れ目を示す文節で区切ると、次のようになります。
文中の/で区切られた部分は、多くは漢字で始まり平仮名で終わっています。例外は「とても」「しまった」です。
文節の多くは「自立語+付属語(助詞・助動詞)」という構成です。そして、自立語が漢字で書かれ、付属語が平仮名で書かれると、「漢字始まりで平仮名終わり」という形になるのです。