山歩きが好きだ。地面に這いつくばってキノコの写真を撮ったり、動物の糞を見つけて内容物を調べたりしながら森を徘徊するとき、「ああ、生きててよかった!」とつくづく思う。
ところが今年6月、衝撃を受ける出来事があった。秋田県鹿角市で起きたツキノワグマによる連続人身事故。射殺されたクマの胃袋から、ごく少量だが人の組織が発見されたのだ。
「人を襲って食べたりしない」
という思い込みは捨てよ!
つり人社書籍編集部
つり人社
160ページ
1200円(税別)
北海道に生息するヒグマは過去に凄惨な事故を起こしているが(ただしこれも極めてレアケース)、本州と四国に生息するツキノワグマは「人を襲って食べたりしない」と思われていた。噛みついたとき口に入ってしまった可能性も否定できないし、射殺された個体が人を襲ったものと同一かもわからない。だが、この件が山に入る人たちに大きな不安を与えたことにはかわりない。
本書『熊!に出会った襲われた』は、この鹿角の事故を受けて製作された。クマに遭遇したさまざまな事例や専門家による考察、不幸にして襲われてしまった人たちの体験談などがまとめられている。版元が「つり人社」だけにほとんどの体験談は釣りにまつわるもので、深刻ではないケースにはユーモアさえ感じさせる語り口のものもあるのが特徴だ。
まずは遭遇事例を見てみよう。
“林道まで上がってふと見ると、一匹の犬が道路脇にいた。思わずチチッと舌を鳴らすと人懐っこく寄ってきた。ところが足元まで来たのをよく見ると、犬ではなくて子グマだ。”