これまで、韓国では約40体の少女像が設置されたと聞く。しかし、このことはあまり知られていない。韓国では、慰安婦問題に対する日常的な関心は薄れてきていると思う。しかし、いったん問題が顕在化すると、国民感情に火をつけるところは未だ変わっていない。そこで、政治活動家たちは日韓の問題を再度顕在化しようと釜山総領事館の前に少女像を設置したのであろう。

 少女像の設置に対し、日本政府が大使の一時帰国を含む強い措置で対抗したことは恐らく予想外であっただろう。韓国政府は政治活動家との間に入って困惑している趣である。大使の帰任時期が問題になっているが、抗議の意思は伝わった。これからは、大使が帰任して日本の厳しい雰囲気を日本で感じたままに韓国で伝えることも重要になる。また、韓国の野党政治家は慰安婦合意の再交渉などと好き勝手なことを言っているが、それが非現実的であることを説得することも大使の役割である。

 日韓の歴史問題を巡る対立は、日米韓協力の大きな障害となっている。米国のトランプ政権の東アジア政策が定まらない中、日韓が対立を繰り返せば、オバマ政権の時のようにこれを仲介するどころか、日韓を見放すことさえ考えられる。

 外交は日韓関係のような二国間関係だけで考えられるのではなく、米国、中国、北朝鮮との関係など東アジアを取り巻く全体像で考えていく必要がある。日韓の対立は米国との協力の障害となりかねない。日韓の関係の離間を画策する中国や北朝鮮を喜ばすことになる。こうした地域戦略を考えて行動するべきである。それが朴院長の主張でもある。

米国との緊密な協力なくして
東アジアの安定はない

 最後に日米関係である。昨年12月、トランプ次期大統領と安倍首相との会談が行われたが、大統領就任式直後には、再度、両国の首脳として会談する予定である。トランプ大統領のように思い込みで発言するタイプの人とは首脳同士の信頼関係が何より重要である。最初の出会いは良かったようであるが、それでも直後に就任式後TPPを破棄する意向を述べている。

 日米同盟関係について、集団的自衛権の行使やガイドラインの改定など、日本が米国との協力関係を深めていることは好材料であるが、在日米軍に対する日本の貢献についてどれだけ理解があるのか懸念される。仮にそれについて理解が深まったとしても、これまでのトランプ氏の発言から推測すると、日本の防衛費がGDP比で1%程度であり、米国の3%強と比較して自助努力が足りないことを指摘してくる可能性がある。

 いずれにせよ、米国との緊密な協力なくして、中国の海洋進出に対抗するすべはなく、北朝鮮の脅威からも国を守ることはできない。また、韓国との関係の安定を図ることが米国の信頼を勝ち得ることにもつながるのである。こうしたことを肝に銘じながらトランプ政権の誕生を迎える必要がある。

(元駐韓大使 武藤正敏)