
武藤正敏
元徴用工訴訟、日本企業の賠償確定で暗雲…日韓関係「再悪化」懸念の数々【元駐韓大使が解説】
2023年は日韓関係が一気に好転した1年であった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と岸田文雄首相が、日韓関係の改善に向けて示した意欲と行動は並々ならぬものがあった。両首脳の決意は24年においても変わらないだろう。しかし、両国の国内政局は不安要素にあふれており、両首脳の思惑通りにいかない可能性は否定できない。

北朝鮮が「南北軍事合意の破棄」で狙う韓国・尹政権への“鉄槌”とは?【元駐韓大使が解説】
北朝鮮は11月21日夜、金正恩総書記立ち会いの下、軍事偵察衛星を打ち上げ、正確に軌道に進入させることに成功したと発表した。さらに、今後、早期に数個の偵察衛星を追加で打ち上げる計画があると強調している。北朝鮮が米韓の軍事力に対する偵察能力を強化させたことに対抗し、韓国政府は11月22日、2018年9月19日に南北首脳会談で合意した飛行禁止区域設定の効力停止を閣議決定した。

韓国野党の代表が処理水反対ハンスト「決死の断食闘争」狙いは逮捕の回避か?元駐韓大使が解説
韓国の最大野党「共に民主党(以下、民主党)」代表の李在明(イ・ジェミョン)氏が絶体絶命の窮地に立たされている。8月31日からハンガーストライキを続けていたが、9月18日、病院に搬送された。李在明氏は、これまでの数々の不正行為にも逮捕されないようあらゆる手段を駆使してきた。その最後の手段として選んだのが断食闘争である。

ロシアの威を借り図に乗る北朝鮮、「恐怖の兵器」実用化で朝鮮半島危機の恐れ【元駐韓大使が解説】
ロシアを訪問した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党総書記は9月13日、プーチン大統領と、ロシア極東のポストーチヌイ宇宙基地で首脳会談を行った。プーチン・金正恩会談は、19年4月に次いで2度目である。

「中国版リーマンショック」懸念で高まる台湾侵攻リスク、韓国が「中国離れ」を加速する理由【元駐韓大使が解説】
8月18日(現地時間)、ワシントン郊外にある米国大統領の別荘「キャンプデービッド」で日米韓首脳会談が開催された。今回の首脳会談の最大のポイントは、日米韓が協力する領域を大幅に広げ、中国の脅威に対抗する包括的な体制を構築したことである。

韓国で無差別殺人なぜ増加?「イカゲーム」さながらの国民の鬱憤を元駐韓大使が解説
韓国のGDPは世界10位圏にある。サムスン電子、現代自動車などの製造業は、世界の最先端を走っており、BTSなどのK‐POP、映画などの文化コンテンツも豊富である。どう見ても豊かな先進国としか考えられない。しかしその半面で、繁栄から取り残され、不満を募らせた若者も多く生まれている。

米韓同盟の信頼を失墜させた韓国・文前大統領の「うそ」とは?元駐韓大使が解説
日本は、これまで歴史問題の取り扱いを巡って、再三韓国に「ちゃぶ台返し」され、だまされ続けてきた。特に、文在寅(ムン・ジェイン)政権は、慰安婦問題に加え、元徴用工の問題について個人の請求権は未解決だとして、日本政府の謝罪と日本企業の賠償を要求した。

もはや韓国最大野党の「共に民主党(以下、民主党)」が何を言っても、国際社会においては、中国、北朝鮮および日本の社会民主党ぐらいしか耳を傾けないだろう。相手を尊重し、理を持って交渉しなければ、外交上の成果は得られない。国内政治の延長として感情的な外交をする民主党は世界からつまはじきにされつつある。

最大野党「共に民主党(民主党)」は、自らの贈収賄事件や暗号資産不正の問題などで支持が低迷しているのを打開すべく、東京電力福島第一原発処理水の放出(処理水放出)問題を国内政治の焦点にあて、政府攻撃と反日活動を繰り広げてきた。しかし、民主党の主張は科学的根拠に欠けたものであることが露呈しており、その激しい主張とは裏腹に、中間層の支持を得られず、誰からも相手にされなくなった。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は6月28日、保守系団体「韓国自由総連盟」の創立記念行事に参加し、「歪曲(わいきょく)された歴史意識、無責任な国家観を持つ反国家勢力は、核武装を高度化する北朝鮮共産集団に対する国連安保理制裁を解除してくれと要請し、(韓国にある)国連軍司令部を解体する(朝鮮戦争の)終戦宣言を唱え続けてきた」と述べ、文在寅(ムン・ジェイン)前政権を激しく非難した。

韓国が日本を超えたとの指摘が出て久しい。経済面では画期的な成長を遂げ、今や先進国と言っても、誰も疑わないだろう。しかし、韓国の国内政治を見ると、最大野党「共に民主党(以下、民主党)」は、とても先進国となったとは言い難い行動を続けている。歴史問題にこだわり、客観的事実と異なる主張を繰り返し、反省と謝罪ばかりでなく、賠償も求め続けている。福島第一原発の処理水放出問題でデマ政治を繰り返すばかりでなく、教育問題でも平気で前言を翻し、いわれのない攻撃を政府に行っている。

最大野党「共に民主党(以下、民主党)」の李在明代表は、福島第一原発の処理水(以下、処理水)について、「汚染水」からさらに一歩進めた「核廃水」と呼び、非難のレベルを高めている。韓国の政界の最近の大きな変化といえば、民主党による尹錫悦政権の親日姿勢への批判に対し、政府与党も民主党の中国への弱腰姿勢と攻撃するようになったことである。こうした中、民主党は処理水そのものについて批判を強めており、6月17日にも仁川で糾弾集会を開催した。民主党による「デマ拡散政治」は韓国経済と国民生活に悪影響を与えている。

ケイ海明駐韓中国大使が6月8日、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表を招待した夕食会の席上で、「中国の敗北に賭ける人たちは後で必ず後悔する」と述べた。韓国の外交部は直ちに、中国大使を招致し、この発言は「度を越したものであり、内政干渉に当たる可能性がある」と抗議した。すると中国外交部も在中韓国大使を招致し「駐韓中国大使と李在明代表の交流に不当に反応して抗議したことに重大な遺憾と不満を表明し、抗議する」とやり返した。

浜田靖一防衛相と韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相は6月4日、アジア安全保障会議が開催されているシンガポールで約40分会談し、韓国海軍が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題を巡り、再発防止で合意した。具体策を詰める実務者協議を近く始める。日韓の防衛相会談は、2019年以来およそ3年半ぶりとなる。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の訪米において、米国が核を含む戦力で同盟国を守る「拡大抑止」について米韓が合意し、それを文書化した「ワシントン宣言」が出された。韓国国民の7割が自国で核を保有すべきとの危機感を持っている中で、北朝鮮の核問題への対応では大きな成果を残した。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、4月24日に掲載されたワシントンポストとのインタビューで、「100年前のことについて『無条件でダメだ』『無条件でひざまずけ』ということは受け入れられない」と述べた。また、「歴史問題が完全に整理されなければ未来志向に向け一歩も踏み出すことができないという認識から抜け出さなければならない」とも述べている。

中国が日米韓連携の動きに警戒感を強めている。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代は日米韓連携の中で最も脆弱(ぜいじゃく)だったのが韓国であった。このため、韓国が日米との関係強化の動きに出そうなときには、中国は韓国に対し強くけん制に出てきた。

岸田文雄首相は5月7日、アフリカ歴訪からG7首脳会議の合間を縫って韓国を訪韓し、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と1時間45分ほど会談した後夕食を共にした。この会談では、去る3月の尹錫悦大統領の訪日以降の日韓関係の進展を踏まえ、さらに協力を強化することで、日韓関係の「改善の動きが軌道に乗った」との認識で一致した。

米韓首脳会談を前に、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、4月24日に掲載されたワシントンポストとのインタビューで対日外交について、「100年前のことについて(日本に)『無条件でダメだ』『無条件でひざまずけ』ということは受け入れられない」と述べたことが、韓国国内で大きな反響を呼んでいる。

韓国経済が危機的な状況になりつつある。これは支持率低迷に苦しむ尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にとって致命傷となりかねず、早急に立て直す必要があるが、その際の経済・外交政策は、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏の政策とは対極をなすものになるだろう。
