『思い通りに相手を動かす 英文パワーメール20の鉄則』の著者で、海外ビジネス経験の豊富な小林誠氏に聞く、英語でビジネスメールを書く方法。今日は、こちらの不利になる表現を避けて、上手に書くテクニックを紹介します。
今日の鉄則:「こちらの不利になる言葉」と
「we」「our」を近づけて書かない!
ビジネスメールでは、「自分が不利になる表現はしない」というのは大原則です。
自分たちの立場が弱くなっては、ビジネスを思うように進めることはできません。
特に、謝罪メールなどは、こちらの立場の悪い状態で書くので、さらに立場を悪くさせるような書き方は、極力避けなければなりません。
日本人がやりがちな、自らを不利な立場に追い込んでしまう書き方の一つに、「I(私)」「we (私たち)」とネガティブな言葉を近づけて書いてしまうことがあります。
たとえば、「my mistake」「our error」という言葉を書くと、こちらがまともに責任を負うかたちになり、プレッシャーを背負ってしまうことになります。
この場合、「私(たち)の誤り」というように、私(たち)という言葉と誤りという言葉を近づけて書くことは避けて、かわりに「the mistake」や「this error」などと書くべきなのです。
「私たちの誤り」と書いてしまっては、誤りの範囲があいまいで、包括的にとらえられてしまいます。
私たちが、全面的に非を認めてしまっているかのようにも、受け取られかねません。
一方、「その誤り」と書けば、誤りの範囲は狭く限定され、その部分に関してのみ、対処すればよくなります。
「the mistake」や「this error」にかえるだけで、書き手としても客観的な立場になることができ、落ち着いて次の文章が書けるようになるでしょう。
次のメールは、海外の代理店に販売した精密機器が壊れていたとのクレームに対して、返信したメールです。
まずダメな例から見てみましょう。
we, our, usなどの言葉と不都合な言葉を近づけて書いてある箇所に下線を引きました。
6ヵ所もあります。
◆残念なメールの例
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このように、we, our, us と不都合な言葉を近づけて書いてある部分が6ヵ所もあることで、かなりこちらの肩身が狭い雰囲気になってしまっています。
また、自分たちの目で不具合を確認する前に、our mistakeと書いたり、壊れた製品を送ってしまい申し訳ないと言ってしまっている点は、軽率な印象も受けます。
とりあえず、謝ってしまえば相手は許してくれるという考えは、海外ビジネスでは通用しません。気軽に謝るのはとても危険なことなのです(詳しくは連載1回目「Sorryは気軽に書くな! 英語のメールで日本人にありがちな失敗と有利にことを進めるためのテクニック」をご覧ください)。
では、次に、今日の鉄則をもとに書き直した「パワーメール」を見てみましょう。
we などの言葉と不都合な言葉を近づけている部分は、必要最小限の1ヵ所だけになりました(下線部)。
◆書き直してパワーメールに!
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特に大事な点は、謝っている対象が、our mistake でもなく your inconvenience(あなたの不都合)でもなく、the inconvenience(その不都合)になっている点です。
「私のミス」と書けば、こちらの責任が重くなってしまいます。
「あなたの不都合」と書けば、相手は被害者意識が増すでしょう。
しかし、「その不都合」と書けば、客観的な事実を述べているだけになります。
このように書けば、こちらは余計なプレッシャーを感じることも、必要以上に責任をかぶることもなく、言いたいことを無理なく書くことができます。
今回ご紹介したテクニックは、拙著『思い通りに相手を動かす 英文パワーメール20の鉄則』では、「鉄則9:『不利になる言葉』の近くに『we』『our』を書かない」として紹介しています。
一文ごとの詳しい解説や、ネイティブによる、よりこなれた例文なども紹介していますので、参考にしてください。
一つ大事なこと付け加えておきますと、今回の機器の不具合をシビアに考えると、輸送中の取り扱いが悪くて壊れた可能性もあるし、相手が受け取ってから壊したという可能性もゼロではありません。
「残念なメール」の書き方では、最初からすべてこちらの責任になってしまっています。
もしも、話がこじれた場合、our mistake と書いてあると、こちらは過失を認めた証拠になり、状況は不利になるでしょう。
一方、書き直した「パワーメール」では、「the inconvenience」と、「その不都合」だけに限定して謝っているので、余計な責任をかぶることはありません。
不利になる言葉と、「we」「our」を近づけないという鉄則は、こちらの立場を悪くして、交渉力を弱めないようにすることと、余計な責任をかぶらないという意味で、とても大事なことなのです。