それでも万が一道に迷ったときの鉄則があります。最近は「この鉄則すら知らないのでは?」と思うケースも見受けられます。本当は学校の登山で教えて欲しかったその内容というのは、

「迷ったら引き返す」
「迷った時に沢に降りてはいけない」

 というものです。おかしいなと思った時、元に戻れば正しい道に出ます。引き返すのが正解です。

 人は早く家に戻りたい思いから下山したくなります。間違えたからといって、登りを戻るのは辛いのです。でも、日本の山で間違った道に入り下っていくと、多くが沢に出てしまうのです。

 沢の真上には樹林がありません。道があるように開けて見えます。だから、歩きやすそうに見えます。しかし、沢はこれまたほぼ滝に出てしまうのです。断崖絶壁は、装備をもって登る場合にも技術が必要ですが、下りの方がさらに難易度が上がります。沢や滝は滑りやすく体温も奪います。道迷いの最悪の結果は、この滝による滑落です。

 以上から、迷ったら引き返す、沢に下りてはいけないというのは、これを知らずに山に登ってはいけないくらいの鉄則中の鉄則です。知らなかった方はこの機会にぜひ覚えていてください!学校登山でも絶対教えて欲しいです。

 本にある事例1のケースで遭難者は、おかしいなと思ったものの、戻るのは、「億劫だった」から、「小屋までもうすぐだろうから」と下って行きます。羽根田氏も「道迷い遭難に陥る、まさに典型的なパターンである」と記されています(以下、太字は全て「ドキュメント 道迷い遭難」〈羽根田治著/山と渓谷社刊〉からの引用です)。そして、やはり沢に降り滝に出てしまいます。流れに入りケガもしているので、滝に出た際には、戻ることもできない状況になっています。その時、遭難者は滝壺に飛び降りる決断をし、飛び降りてしまいます。

 幸い生還された方は

“窮地に陥ったときの人間の心理とは、えてしてそんなものだろう。自分ではよく考えてベストの選択をしたと思っているかもしれない。しかし、のっぴきならぬ状況の中で、自覚しないまま平常心は失われ、いつしか冷静な判断ができなくなっている。それが道迷い遭難の一番怖いところだと思う。”

 と語っています。

 事例5ではこのように書かれています。

“道を間違えていると知りつつも、吉田は美しい風景に誘われるようにして沢を降りていってしまう。また、下っていく方向には赤い屋根の建物が見えたという。それを武尊牧場の建物だと決めつけ、だったら方向的には間違っていないから、なんとか下っていけるのではないかと思い込んでしまった。”