打ち明け話をすると、広報から案が上がってきた時は正直、ぎょっとした。「これはあかんで」と突き返した。大学としてはあまりに品がないし、富士山からマグロが顔を出している広告を正月に出すなんていうのは、もってのほかだと思ったからだ。しかし、広報担当者が粘って言った。

 「いや、よう見てください。富士山だなんてどこにも書いていません。先生こそ固定観念に縛られているんじゃないですか」

 これにはまいった。

 偏差値で言うと、関西では国立なら京都大学や大阪大学。私大では「関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)」が上位に並ぶ。近大はその下、「産近甲龍(京都産業大、近大、甲南大、龍谷大)」としてくくられ、関関同立を追う立場に固定されている。

 長年染みついたこのイメージを覆すのは、容易なことではないだろう。完全に払拭するには、ひと世代はかかると見ている。しかし、私たちはあえてそこにチャレンジしていく、と決めた。あの刺激的な広告で、そういう私たちの覚悟を示したつもりだ。

 ブランドや偏差値だけではない、大学の価値と競争力。グローバルだけれども、地に足の着いた実学教育。私たちは「4年間でどこまで学生を変えることができるか」が、大学教育の本当の価値だと思っている。

 改革は緒に就いたばかりで、近大は川に浮かんでいる船と同じだ。止まったら、必ず川下へ流される。マグロと一緒で、止まることは「死」を意味する。常に世の中の流れをつかみ、チャレンジを続けていかないといけない。

 改革を考える時は必ず、「変えていかないといけないもの」と「変えてはならないもの」の2つを同時に考えなければならない。

 近大は「実学教育」と「人格の陶冶」を建学の精神に掲げている。

 実学は時代によって変化する。変わらないのは「人格の陶冶」、つまり「人間を育成する」という本分だ。世の中が今後どう変化していくかはわからないが、これだけは決して忘れてはならないと思っている。

(近畿大学名誉学長 塩崎 均)

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