近畿大学 塩崎均
近畿大学 塩崎均名誉学長 Photo by Hiroki Kondo

近畿大学東大阪キャンパス内に2017年4月、約7万冊のセレクトブックを配した図書スペースや24時間利用可能な自習室などを備えた「アカデミックシアター」がオープンした。「超近大プロジェクト」と名付けた整備計画の一環で、総事業費は約500億円。そのすべてを自己資金でまかなうという。経営悪化に苦しむ私立大学が多いなか、近大はなぜ、そんな大胆な投資へと踏み出せたのだろうか。前学長で現在は名誉学長の塩崎均氏が、500億円の投資も可能にした近大の「稼ぐ力」について語る。

マグロの完全養殖成功まで32年
国の研究費が途絶えても諦めなかった

 近畿大学を一躍有名にしたのはマグロだ。近大マグロの養殖と研究は大学の水産研究所が手がけており、その実験場は和歌山県串本町と鹿児島県の奄美大島にある。

 先だっての台風21号では串本町で養殖していたマグロが海に逃げたり、死んだりして大きな被害が出たものの、それも「近大マグロ中退か?」と話題になるほど、近大と言えばマグロのイメージが強い。

 学長就任直後、まずは近大の全貌を知るべく全国の研究所などを回っていた頃、研究者から「マグロの卵はどのくらいの大きさだと思いますか?」と聞かれたことがある。成長して出荷されるクロマグロの体長は、大きなものでおよそ2メートル。卵もけっこう大きいのだろうと思ったら、顕微鏡で見なければわからないほど小さかった。

 孵化してもミジンコのようにか弱く小さいため、最初は藻を餌にするという。なるほど養殖が難しいわけだ。

 近畿大学水産研究所の開設は1948年にまで遡る。私がまだ4歳の頃だ。学制が新しくなったのに伴い、大阪理工科大学と大阪専門学校が合併して近畿大学が設立されたのは1949年のことだから、水産研究所の歴史は大学よりも古い。

 マグロの養殖研究は戦後すぐの食糧難を背景に始まった。海水魚の養殖は先達のいない分野だったが、初代総長の世耕弘一氏は「日本は海に囲まれている。海を畑と考えれば、目の前に広大な畑が広がっている」と考え、食料難を解決する目的で水産研究所を設立したと伝えられている。

 なかでもクロマグロの養殖は苦労の連続だった。完全養殖に成功するまでは、じつに32年もかかった。

 長年研究に携わった先生に話を聞いたところでは、かつて5つの大学が国の予算を使ってマグロの養殖に挑戦したが、3年経ってもなんら成果が出なかったため、研究費を打ち切られたこともあったらしい。打ち切られても、近大だけはマグロの養殖を研究し続けた。