いわゆる「米中戦争」が始まってから、1年以上が経過した。これは、ただの「関税引き上げ合戦」ではない。世界の覇権をかけた、米国と中国の真剣な戦いである。しかし、「平和ボケ」している日本政府は、米中対立の本質が理解できない。それで日本は、また「敗戦国」になる可能性がある。(国際関係アナリスト 北野幸伯)
米中覇権戦争のきっかけは
15年の「AIIB事件」
まず、米中戦争が始まった経緯について知っておこう。
この戦争が始まったのは、2018年7月とされている。米国は18年7月6日、中国からの輸入品340億ドル分に25%の関税をかけた。同年8月23日、160億ドル分に25%、9月24日、今度は2000億ドル分に10%の関税をかけた。
ペンス副大統領は同年10月4日、「ハドソン研究所」で「歴史的」ともいわれる演説をした。激しく中国を非難するこの演説を聞き、世界中の多くの専門家は、「米中冷戦時代が始まった」と判断した。
18年7月以前に何が起きたかも、書いておこう。筆者は、15年3月の「AIIB事件」がきっかけで米中戦争が起こったと見ている。
「AIIB事件」とは、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など親米諸国群が、中国主導の国際金融機関「AIIB」への参加を決めたことを指す。米国は、親米諸国に「AIIBに入らないよう」要求していた。ところが彼らは、米国を完全に無視して、AIIB参加を決めた。
これは、米国の没落を象徴し、中国が覇権一歩手前まで近づいていることを示す歴史的大事件だったのだ。
これでオバマは、生まれ変わった。彼は、大統領就任後、08年から始まった「100年に1度の大不況」対策で多忙だった。危機を克服した後は、主敵の定まらない外交をしていた。
11年、リビアを攻撃。
13年8月、シリア攻撃を決意するが、翌月変心して戦争をやめ、世界を仰天させた。
14年3月、クリミア併合で、プーチン・ロシアが最大の敵に浮上する。
14年8月、ISの暴れ方があまりにもひどいので、空爆を開始した。
このように、オバマの主敵は、頻繁に変わってきた。しかし、15年3月以降は、中国を最大の敵と定め、熱心にバッシングするようになった。