ドライバー不足により荷物が運べなくなる「物流危機」に注目が集まる中、物流業界では、持続可能なシステムの構築に向けた各社の動きが加速している。未来の物流業界はどのような姿に変わっていくのか。日本を代表する老舗物流業界紙「カーゴニュース」の西村旦編集長に聞いた。
深刻さを増す物流危機。「運べない」事態も
――慢性的な人手不足により、物が運べなくなる「物流危機」に注目が集まっています。「物流危機」の現状をどう捉えていますか。
西村 トラックドライバーや倉庫作業員などの人手不足は深刻さを増すばかりです。鉄道貨物協会が2019年に発表した見通しでは、28年度に国内のトラックドライバーが約28万人不足すると予測しています(グラフ参照)。
物流を滞りなく完結するためには約117万人のドライバーが必要であるにもかかわらず、供給が約90万人にとどまるということです。つまり、このままでは約10年後に荷物の4分の1が運べなくなる可能性があるということを意味しており、日本経済にとっても深刻な事態だと捉えるべきです。
――そのための解決方策とは。
西村 まずは、トラックドライバーになりたいという人材を増やすことが先決です。
そのためには、賃金や労働時間を改善して、若年層から「選ばれる職種」にしていくことが必須です。
トラックドライバーは一般産業平均と比較して「賃金水準が2割低く、労働時間が2割長い」といわれており、このままでは若い労働力を呼び込むことができません。労働時間短縮と賃金アップが不可欠であり、そのための原資として荷主から収受する運賃レベルを相当程度上げていく必要があります。逆に言えば、荷主企業はかなりの物流コストアップを覚悟しなければ、自社の物流を安定的に維持することができなくなる可能性があります。
また、24年4月から、トラックドライバーに対する残業時間の上限規制がスタートします。これは、1人のドライバーが働ける時間が短くなるため、より多くのドライバーが必要になることを意味します。現状でもドライバー数が足りていないのに、さらに必要になる。荷主企業の関係者は、物流を巡る状況がこれまでと大きく変化していることをシビアに受け止める必要があるでしょう。
「カーゴニュース」編集長
1992年カーゴ・ジャパン入社。「カーゴニュース」編集部記者として、物流事業者、荷主企業、関係官庁などを幅広く担当。2011年代表取締役社長兼編集局長に就任。同年、幅広い交通分野での物流振興を目的として創設され、優良な論文などを顕彰する「住田物流奨励賞」(第4回)を受賞。
――「経済の血管」でもある物流がストップすれば、経済活動がうまく回らなくなる事態が考えられます。
西村 そのためにも、限られたリソースを有効活用するためにあらゆる手段を講じていくことが大事です。
共同物流を幅広く展開してシェアリングの輪を広げていくことが、有効な手立ての一つとして注目されています。IoTやAIなどの最新テクノロジーを使って荷物とトラックのマッチング率を高め、トラックの実車率を向上させるというものですが、これを実現していくためには、幅広い物流企業や荷主企業が参加できるオープン型のプラットフォームを整備していく必要があります。
また、ドライバーの数を増やしていくためには、外国人労働者の活用も真剣に検討すべき段階に来ていると思います。
倉庫や物流センターの作業員の労働力不足については、ロボット技術の大胆な導入が不可欠です。特にEC分野では、人手に頼っていたピッキング作業をロボットに代行させ、将来的に無人化を目指していく動きが進んでいます。
――高速道路でのトラック隊列走行の実現に向けた動きが進んでいますが、自動運転技術への期待は。
西村 長期的には“切り札”になり得ます。ただ、本当の意味で人手不足を救う手段となるには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。
私見ですが、10年後にようやく視野に入ってくるかどうか。物流の“今そこにある危機”を救うには、少し時間が足りないかもしれません。