少額短期保険業は、2005年の保険業法改正に伴い導入された。保険金額が上限1000万円と少額で、保険期間も1~2年以内と短期なのが特徴。「ミニ保険」とも呼ばれ、旅行キャンセル保険や雨漏り保険、ペット保険など生活に密着したニッチな商品が多い。
規制の緩さもあって市場規模は年々拡大しており、収入保険料は業界全体で1000億円を超え、事業者数は103社に上る。
大手の保険会社だけでなく、楽天やヤマダ電機など異業種の参入も相次ぐが、J:COMの強みとなるのが、既存サービスの顧客基盤と対面の営業力だ。
J:COMは1995年、住友商事と米TCI(現リバティ・グローバル)の合弁会社として設立され、ケーブルテレビ事業を開始。その後、積極的なM&A(企業の合併・買収)で業態を拡大し、提供するサービスは固定電話、高速インターネット接続、携帯電話、電力、ガスなど多岐にわたる。現在は総合商社の住友商事と通信大手のKDDIが株式を50%ずつ保有する。
今やJ:COMのサービス加入者は日本の世帯数の約10分の1に相当する554万世帯。さらに敷設工事が済んだ一戸建てやマンションなどに居住し、いつでも加入可能な世帯(ホームパス世帯)は2175万世帯に上る。しかもサービス加入者の大半がファミリー層であり、対面証券の顧客のように高齢者に偏在しているわけでもない。
これらのサービス加入者からJ:COMは、インターネット上のトラブルや医療・介護などに関する相談を日々受けており、こうした課題を解決する保険商品へのニーズが大きいと判断した。
保険は世帯単位で加入でき、月額保険料が数百円のリーズナブルな商品とする計画。既存サービスの利用料と合わせて「ワンビリング」(1枚の請求書)で支払い可能とし、保険加入のハードルを下げる狙いも込める。
“どぶ板営業”健在
600人が保険販売の資格取得
J:COMの顧客基盤を支えるのが、全国に展開する営業部隊だ。
全国50カ所以上のショップのスタッフのほか、アフターサポート担当者やサービスエンジニア、コールセンターのオペレーターら、顧客と接点を持つ従業員は約1万人に上る。
近年はAIやインターネットの普及で訪問販売員は「消えてなくなる職業」と指摘されることもあるが、地域に密着し、各家庭への個別訪問を繰り返す“どぶ板営業”はJ:COMにおいてまだまだ健在だ。現場の士気の維持・増進につなげようと、J:COMでは毎年、契約件数などが多い成績優秀な営業員を東京ディズニーリゾート近くのホテルに招き、大々的な表彰イベントを開催している。
今後は、この強力な営業部隊が、既存サービスに加えて金融商品の販売を担う。保険の販売ではまず、営業員ら約600人に保険募集人の資格を取得させる計画だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で、あらゆる業界で非接触型営業への移行が進むが、金融商品の販売に関しては「高齢者を中心に対面で相談したいというニーズが多い」(証券会社幹部)のが現状だ。J:COM幹部は「これまで築き上げた顧客接点の広さが金融業でも生かされるはずだ」と意気込む。
もちろん対面営業だけでなく、家庭にさまざまなサービスを提供する“生活のプラットフォーマー”としての非対面の販売力も金融ビジネスにおいて有効だろう。
例えばゴルフ専門番組のテレビ画面からリモコンを使ってゴルファー保険に加入できるような仕組みも検討する。
また昨年6月には「J:COMホーム」のサービス提供を開始。家庭にIoT(モノのインターネット)機器を設置し、ドアや窓の開閉確認などの見守りサービスや、家電の遠隔操作サービスを行っている。そこから得られるさまざまなデータを分析し、生活スタイルや年齢層に細かく対応した商品開発も可能となる。
つまりJ:COMの特徴は、顧客接点の「広さ」だけでなく、人々の暮らしに深くコミットした「深さ」も併せ持つ点にある。
この二つが強力な武器となり、銀行、証券、保険など既存の金融機関を脅かす存在となるのは間違いない。



