世界フィンテックデーを
素直に祝えない金融の「現在地」
今年(2020年)の8月1日は、世界フィンテックデー(World Fintech Day)だった。フィンテックの広がりを世界各地でお祝いする日であり、フィンテック業界の専門家、実務家、ファンが、リアルやバーチャルに集い、フィンテックを語るイベントが開催された。
8月1日が世界フィンテックデーに選ばれたのは、近代銀行の原型を作ったコジモ・メディチが、1464年の同日に亡くなったからだ。1464年は、応仁の乱の3年前、鉄砲やキリスト教が伝来する80年以上前のこと。ただ、コジモ・メディチが、銀行業(あるいは金融業)に革新をもたらしたことを否定するつもりはないが、没後550年以上が経つ人物にあやかって記念日とすることは、銀行業界におけるイノベーションの遅れを象徴しているようにも見える。
もちろん、銀行業界でもIT化は進展しており、業務に劇的な変化が起きた。基幹システムが導入されたことで勘定突合が早くなり、ATMの導入で窓口業務が軽減された。オフィスではPCが導入され、文書作成、表計算、ファイル共有などのドキュメント処理の効率性も格段に高まった。IT化によって、銀行業界の生産性や省力化は格段に進んだ。
農業よりもイノベーションを
重視しない金融業
金融業界は、フィンテックで変革が進んでいるとのイメージがあるかもしれないが、イノベーションという角度から他業界と比較してみると、意外な姿が見えてくる。欧州33カ国791社を対象としたイノベーションに関する意識調査によると、最も「イノベーティブ」な業界は1位が製薬で、ホスピタリティ、テクノロジーが続く。そして金融は、運輸、農業、エネルギーより下位で、全20業種中の17位だった。
「イノベーションか死か?」といった切実な競争に直面する業界ほど、イノベーションを重視している。製薬業界は創薬で凌ぎを削っているから当然の結果かもしれないが、ホスピタリティ業界がテクノロジー業界よりもイノベーションを重視していることには驚かされる。
一方、金融業は高い参入障壁もあって競争は限定的。また、競争といっても手数料や金利を下げる以外の戦い方をしていないことから、イノベーションへの意識は低いのかもしれない。事実、日本の金融機関で「フィンテックの推進」(あるいは最近では「DX の推進」)の掛け声はあっても、「競争優位性としてのイノベーションの推進」を経営方針に掲げている話は聞かない。