インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

[質問]
一日の四分の三ずっと勉強して頑張って、やっと偏差値50いくぐらいでテストの結果を親が見る度に、「どうせさぼってる」とか言われたり、ブラシで頭を殴られたりなど暴力をふるわれたり、教科書を破られたりします

 はじめまして。私は中学受験のために塾に通っています。一日の四分の三ずっと勉強して頑張って、やっと偏差値50いくぐらいでテストの結果を親が見る度に、どうせさぼってるとか言われたり、ブラシで頭を殴られたりなど暴力をふるわれたり、教科書を破られたりします。私の学校では、中学受験する人はかなり少なく、する人でも、公園で遊んでいるところをよく見かけます。

 そんなに言われたりするくらいだったら、塾をやめて皆と遊びたいと言ったら家にいれてもらえませんでした。私には小一の妹がいるのですが、私が一年生の時とはちがい、暴力をふられたりすることもなく、のんびりテレビを見ています。こんな生活していても楽しくないんです。どうしたらいいでしょうか。

勉強が得意な人と苦手な人の決定的な「差」とは

[読書猿の解答]
 確かにあなたが置かれた今の状況はとてもよくないと思います。
 質問の文章を見る限り、あなたの頭は悪くありません。だからご両親はあなたに期待したのでしょう。

 あなたに期待し、たくさん勉強させた→しかし結果は期待ほどじゃなかった→だから、さらにたくさん勉強させる→それでも結果は期待に届かない→……。この繰り返し(ループ)で、あなたの生活はほとんど勉強一色になってしまいました。

 あなたのご両親は、「あなたがまじめにたくさん勉強すれば、テストの点が上がって問題が解決する」と思っています。しかし本当は、そうやってたくさん勉強させることが問題を生んでいます。あなたは勉強がどんどん嫌になるし、楽しいこともなくなって、このままだと病気になってしまうかもしれません。

 今、私は大切なことを言いました。「勉強がどんどん嫌になる」というところです。
 これは二重の意味で残念なことです。

 信じられないかもしれませんが、本当は、勉強というものはあなたを助け、あなたの味方になってくれるものです。たとえば将来、自由や自立を勝ち取るときに勉強は必ず助けとなります。なのに、このままだと、あなたは勉強を嫌いになってしまって、勉強をできるだけ遠ざけるようになり、将来、勉強を味方にすることができなくなると思います。

 そしてもう一つ、勉強が嫌いになればなるほど、勉強をたくさんやっても結果につながりません。そうすると、ご両親は「まじめにやってない」とますますあなたを責め、あなたはますます勉強を嫌いになる、この繰り返し(ループ)に陥ります。

 勉強が嫌いでない、むしろ好きな人たちは、嫌いな人たちよりも良い成績を上げることが多いのです。なぜか。

 勉強が嫌いな人は、テストで点を取るのに必要なことしかやりませんが、好きな人たちは何しろ楽しみでやっているので、必要でないことについてもいろいろ「寄り道」します。だから勉強しているそのことだけでなく、その周辺についても、うろうろと歩き回るので「地図」のようなものが頭に残ります。
 これに対して勉強が嫌いな人たちは、いろんな問題の解き方は覚えますが、これはいろんな目的地へ向かう道順のようなもので、地図ではありません。

勉強が少しずつ得意になる3つの質問

 さてテストとは、入学させる人を決めるのに使うために、点数の差がつくように、いろんな問題をまぜて作ります。誰でも解ける問題、やったことがあれば解ける問題、そして知っていることを組合せて応用しないと解けない難しい問題などでできています。

 偏差値50というのは平均点あたりの成績という意味です。おそらく誰でも解ける問題ややったことがあれば解ける問題については、あなたは正解できると思います。
 しかし知っていることを応用しないと解けない問題はきっと難しい。それは行ったことのない場所へ自分の力で行けと言われているようなものだからです。

 この「応用しないと解けない問題」を解くことができるのが、必要でないことについてもいろいろ寄り道した、勉強が好きな人たちです。彼らは頭の中に地図を持っているので、はじめての場所でもどっちへ行けば良さそうか分かる、つまりはじめての問題でもなんとか解くことができるのです。

 ここまで読んで、「だったら、どれだけ頑張ってもかなわないじゃないか」と、あなたは絶望的な気持ちになっているかもしれません。

 でも、今お話ししたような「勉強のひみつ」は多くの人は知りません。知っているのは勉強の仕方をちゃんと科学的に学んだ人ぐらいです。
 ですが、あなたは知りました。「今すぐ勉強を楽しめ」と言われても無理でしょうが、勉強のやり方を少し変えることならできるかもしれません。

 勉強好きな人がやってる「寄り道」の力を取り入れるには、たとえば問題を解くとき、次の3つの質問を自分でして、答えを考えます。

1.これは私が知っている問題だろうか?(はい、いいえ)
2.(知っているなら)私はこれを解くことができるだろうか(はい、いいえ)

3.(知らないなら)私が知っていることで、この問題に関係ありそうなものはあるか思い出せるだろうか(はい、いいえ)

 この3つの質問を続けていけば、あなたの勉強の仕方はゆっくりとですが良い方に変わっていくでしょう。

 さて、あなたが勉強を楽しいと思えないのは、あなたの責任ではありません。
 あなたのご両親もきっと勉強が楽しいものであることを知らないのでしょう(もっとも大抵の大人がこのことを知りません)。そして勉強の楽しさを知らないということは、勉強のやり方も知らない可能性が高い。勉強を楽しむ人がする「必要でないことについてもいろいろ寄り道する」ことの中には、やり方についていろいろ工夫するというのも含まれるからです。

 問題の繰り返し(ループ)に陥った人は、自分ではなかなか繰り返し(ループ)の中にいることに気付けません。しかも誰かが繰り返し(ループ)から抜けようとすると、怒ってその人を繰り返し(ループ)に引き戻すことさえします。あなたが「塾をやめたい」と言った時のご両親の反応はまさにそれです。
 変えるとしたら、内からじわじわ繰り返し(ループ)を作り変えていくか、外から大きな力で繰り返し(ループ)をぶった切るしかありません。

 外からぶった切るのは、あなたにはできません。外部の大人がやり方とタイミングを考えて実行することになります。あなたがやるのは外部の大人に助けを求めることです。親以外に身近にいる大人といえば、まずは学校の先生になると思います。担任の先生がダメなら、保健室の先生や、他の先生でもいいです。今回、質問したようなことを説明すればいいです。