インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
(こちらは2020年11月の記事を再掲載したものです)
[質問]
頭ではわかっているつもりのことが、行動に起こせないのは、全て私の怠慢と自堕落に起因するのでしょうか。今年度受験生として過ごす身として、勉強しなくてはならないのはわかっているのですが………。
まずは「机の前に座って勉強しない」を実行してください
[読書猿の解答]
失礼ながら、重要なことをいくつかご存じないようにお見受けします。まず自分に「怠慢」と「自堕落」のレッテルを貼っても、解決になるどころか自己嫌悪からますますやる気を削ぎ落とします。
さらに重要なことに、やる気は義務感からは生まれません。
むしろ「やらなければ」という気持ちが強すぎると、「まだまだこんなものじゃだめだ」と自分がやったことに満足できず、やる気が生まれる機会をつぶすことになります。
高すぎる目標や義務感→失望→やる気なし→行動せず→あせり「遅れを取り返さなければ」→さらに無謀な目標や強められた義務感→更なる失望…という悪循環にはまり込むことになります。
では、やる気はどこから生まれるかというと、行動から、より具体的には行動したことによる達成感から生まれます。小さな目標を実現すると小さな達成感からいくらかのやる気が生まれ、これがうまくいけば次の行動→次の目標達成→達成感→さらに行動…という行動とやる気の好循環につながります。
ここに至ると、しばらくは(行動が成果につながりにくくなる中級の壁にぶち当たるまでは)順調に努力し続けることができます。
というわけで、ものすごく小さな目標を設定しごくごく小さな達成感を得るところから始めるのが正解なのですが、大きすぎる目標と高すぎる義務感による悪循環の中にある人は、その認知も悪循環に巻き込まれていて、なかなか目標切り下げに応じません。
ギャンブルで負け続けた人がいままでの負けを取り返そうと大きく賭けてますます損をするように、この悪循環の渦中にあると、遅れを一気に取り戻そうと目標をさらに高めたり、周囲も自身も義務感をさらに強化したりして、余計に悪循環を増悪させることが多いです。
事態が悪循環で維持・悪化しているので、解決方法としては「逆説介入」になります。
机の前に座るが勉強はせず、自分の義務感と目標がどれほど高いか、心の中を観察してください。きっと「こんなことしてる場合じゃない」という焦りが出てくるでしょう。この気持ちをよく観察して、最高点100点として点数を付けてください。これを最低でも一週間、毎日続けます。
途中、どうしても勉強したくなったら、一日5分までならO.K.です。しかし6分以上してはいけません。但し、義務感を観察ができた日は、あと5分追加しても構いません。2日連続で観察できたら5分×2日=10分まで延長可と、少しずつ時間を増やしてもよいでしょう。