しかもこうした仕事の疲労で生じたうつ状態には、抗うつ薬が効きにくいという報告もあります。そのような状況のなかで、

「大量の情報を扱うには、心のゆとりが必要だ。そして創造力を高め、おもしろい智恵やアイデアが生まれてこそ、コンピュータの技術は発展する」

 という発想から、マインドフルネスに目を向けたのだと思います。

 その後、さまざまなIT企業、さらにはほかの大企業でも相次いでマインドフルネスが社員向けプログラムとして採用され、近年では日本国内の企業でも導入が進んでいます。

 その結果、多くの企業で社員の健康度が上がり、不調のために社内の診療所を訪れる人の数も、心に問題を抱えて病院の精神科や心療内科に通院する人の数も減ったという報告もあげられています。

 つまりマインドフルネスは、グーグルをはじめとするIT企業のひしめくシリコンバレーを“発信源”として、一般の企業社会に広く普及、浸透していったのです。日本には少し遅れて“逆輸入”されたということもできるでしょう。

 古来より禅の精神が根づいているはずの日本で、マインドフルネスの導入が立ち後れたのは、1990年代に起きたオウム真理教の事件などの影響で、宗教や瞑想に対する抵抗感が強かったせいかもしれません。

 でもいまでは、日本のビジネス界においても多くの企業がマインドフルネスを取り入れています。

 私もコロナ禍になる前は、大手企業の本社内にある大講堂で1000人近い社員のみなさまに瞑想指導をさせていただいたことがあります。

 ビジネスパーソンにとってマインドフルネスは、いまや心身の健康に欠かせない「サプリのようなもの」と、とらえていただいてよいかと思います。

 もちろん、ビジネスパーソンだけでなく、主婦の方でも、現役を退かれた世代の方でも、学生さんでも、マインドフルネスは大変有効です。

 本連載では、「半分、減らす」をキーワードにして、余計なものや、多すぎるものを減らして、すっきりと、シンプルに、そして豊かに生きるためのヒントを、禅僧の立場から、そして精神科医の立場から、ご提案していきたいと思います。