そこではじめに、様々な原因によって長期間痛みが続く、慢性疼痛を軽減するための治療に瞑想を活用する試みに着手したのです。

 その後、博士は精神医学の専門家だったこともあって、うつ病や不安障害などの治療に用いてみたところ、みごとに症状を改善する、あるいは再発を防止する効果が認められました。

 現在では世界中の多くの研究者、治療者にマインドフルネスの有効性が認識されるようになり、その対象がどんどん広がっています。

 さまざまな精神疾患や心の悩みに対する心理療法や精神療法に用いられているほか、血糖値の改善や、肥満、慢性疲労、高血圧の治療などにも用いられるようになりました。

 思うに、博士がマインドフルネスを編みだした背景には、昔にはないような原因不明の痛みを訴える患者さんが増えてきたことがあるでしょう。

 またその種の痛みを、昔から使ってきた鎮痛剤では根治させることができない、という治療上の課題にも着目されたのではないでしょうか。そこで「心にアプローチしてみよう」と、禅の瞑想効果に注目されたのだと思います。

 ちなみにジョン・カバットジン博士のマインドフルネスの定義は、「いま、この瞬間の体験に注意を向け、評価や価値判断を手放してただ観察する」ということ。

 もちろん、瞑想のときに呼吸に意識を向けることもそうですが、座って行なう瞑想に限らず、目の前の一つのことだけに意図的に注意を置いて取り組むことは、すべてマインドフルネス瞑想と言えます。

シリコンバレーを発信源とし、
日本には少し遅れて“逆輸入”

 さて、医療現場で用いられたマインドフルネスは、どのようにしてビジネスパーソンをはじめとする一般の人たちの生活にまで浸透していったのでしょうか。

 そのきっかけの一つは、世界トップクラスのIT企業グーグルが、社員の能力開発やストレス対策としてマインドフルネスを取り入れたことです。

 ITはいまをときめく産業ですが、社員たちはディスプレイに向かって長時間続ける作業などで、心身が疲れきってしまうのでしょう。「一般企業の会社員に比べると、うつの発生率が2、3倍にのぼる」といわれるほど。