発売即重版が決定した『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)。
今回は、著者の脳内科医・加藤俊徳氏と神奈川県相模原市で左利きグッズ専門店を経営する浦上裕生氏の「アイデアの秘密」についての特別対談が実現しました。(構成・吉田瑞希)

脳内科医に聞く“話題の左利きグッズ店”の「アイデアの秘密」Photo: Adobe Stock

豊富なアイデアはどこから生まれる?

浦上裕生氏(以下、浦上):私は、両利き(クロスドミナンス)です。完全に左なのは左目と耳ですね。私は「どうやって、そういうアイデアを生むんですか」とか、「なんでそんな商品を売ろうと思ったんですか」と聞かれることが多いんです。

 以前、流しそうめん世界大会というのをやったんですよ。神奈川県の相模原市にリニア停車駅ができることによって、2027年には名古屋まで行くんです。名古屋には、きしめんがあって、長野にも停まって、そばがあって、山梨も停まって、ほうとうがあるんです。要は停車駅すべてに有名な“麺”がある。だったら相模原は?ということで「そうめん」を流せば、相模原の名物になるかも?と思いついて、イベントをやろうと。世界大会ということでスパゲッティーとチョル麺とフォーも流して、めちゃくちゃカオス的なイベントにしたんですけど、結果、たくさんのテレビ局が取材に来る話題のイベントになったんですね。

 きっかけは、リニアを見た瞬間に、「流しそうめんが流れてる筒」に見えたんです。流しそうめんのイベントとリニア、どうやったら繋がるかなとイベントを考えたんです。その後も、電車ゴッコ世界大会相模相撲相模場所など、これ面白いんじゃないかなっていうアイデアがどんどん浮かんでくるんですよね。傍から見たら変なイベントですが、集客面はどれも大成功でした。

加藤俊徳先生(以下、加藤):左と右って何がすごいかというと、二つ対比ができるじゃないですか。対比行為っていうのは、すごく脳を刺激するんですよ。比較することは、すごく脳を伸ばす。左利きって、やっぱり右利き9割のアウェーの中で生きているので、必然的に対比行為を迫られていて、思考力を高めていくんですよね

 浦上さんがすごいアイデアがあるのも、要するに右に対して左を対局に据えて考えているので、対比することによって、グッズとしての発明力など、よりその思考回路が生み出されやすい状況ではあると思うんですよね。

浦上:本当にそのとおりだと思います。あと、やっぱり左利きの不満が僕のところに直接来るんですよ。お店に来て、ちょっとした一言みたいなのがすごく多くて。

加藤:なるほど。私が考えている以上に、左利きの孤独感、つまり、左利きの人たちが、孤独に耐えて、悩んでいたのですね。本書には書いていなかったのですが、おそらく、「左利きは孤独に強い」というすごい特徴もあると考えています。

アイデアのきっかけは中学生の一言

浦上:私は今、SDGsに興味があって。なぜ興味持ったのかというと中学生の一言だったんです。職場体験学習で中学生がうちに3日間ぐらい勉強しにきて、ポスターを描いたり、品出し手伝ってくれたりするんですけど。そこで、針なしホッチキスを持ってきて、これってSDGs商品ですよねと言われたんです。

 私、そのとき気付かなかったんですよ。でも、右利きでも左利きでも使いやすいし、ホッチキスの針も使わない。ごみになるんだったら、そのまま捨てられる「すごくエコな商品ですよね」と言われて。

 二十何年間ずっと売っていたのに、そんな観点、持ってなくて、中学生すごいなと思ったんですよ。中学生の観点というのは、すごく大事だと気付いて、毎年、職場体験を受け入れて、いろいろやらせてもらってるんです。私もそのようにアイデアを生むきっかけをもらえているので、すごくありがたい話ですよ。

加藤:やっぱり小学校後半から中学、高校の初めぐらいに、そういった純粋な気付きは生まれやすいですよね。なぜかというと、高校の後半になってくると、思考力が目覚めすぎてくるんですよね。

 だから中学ぐらいだと、まだ思考力より入力系のほうが非常に旬で感度が高いですね。18、19歳になると、前頭葉の伸び率が高くなって、自意識が高くなってくるんです。

 そうすると、自分でこうしたい、ああしたいっていう気持ちのほうが強くなってくるんです。中学生ぐらいだと、周りにあるものを、すんなり受け取りやすい、そういう時期だと思いますね。見たものに対して、そのまま純粋に受け取りやすい年代ですね。

脳内科医に聞く“話題の左利きグッズ店”の「アイデアの秘密」『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
脳内科医に聞く“話題の左利きグッズ店”の「アイデアの秘密」浦上裕生(うらかみ・ひろお)
左利きグッズ専門店として数多くのメディアで紹介される「菊屋浦上商事株式会社(神奈川県相模原市)」文具店の三代目。メーカー数社と左利き商品の充実を目的とした「レフティ21プロジェクト」の代表を務めるだけでなく、地域活動などに数多く携わり様々なイベントを仕掛ける。またSDGs活動に関する多くの講演や職場体験学習の指導から学んだことを活かすため、地域団体「SDGsコネクトさがみはら」を2021年11月に設立。さらに相模原事務用品協同組合の代表理事として『SDGs本を読んで未来を絵にするコンクール』を12月に開催を予定している。