発売即重版が決定した『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)。
著者の脳内科医・加藤俊徳氏に、左利きでダイヤモンド・オンラインの記者、山本興陽氏が自身の経験から「左利き特有の脳を活かす方法」について聞きました。(構成・吉田瑞希)
左利き特有の脳を活かすには?
山本興陽(以下、山本):『すごい左利き』にもあったのですが、左利きは、論理的思考よりも直感力が強いのでしょうか。確かに私も、これまでの人生は直感で生きてきた一方、論理的に考えるのが、少し弱かったかなと反省していて。
左利きの直感を活かしつつ、より高い論理的思考力レベルで記者の仕事をやっていきたいと考えているのですが、26歳の今から論理的な能力を上げていくことは可能でしょうか。
加藤俊徳先生(以下、加藤):左利きは帰納法が得意なことに気付けばいいんですよ。帰納的に、自分が直感したことを上手に結びつけることによって、帰納的な思考による成果が見えてくるわけですね。
帰納的な思考に対して、演繹的な思考は、方程式や原理原則から始まって、似たようなことも、やっぱりこの原則に当てはまっているというように導いていく流れです。ところが、直感の強い左利きは、この方程式や原理原則に疑いを持つのです。それどころか、常識にまで思考の手をのばして、「それ、本当か」と疑い始めます。
こうなるとやはり、演繹的な思考を始めたはずなのに、帰納的な思考になっていくわけです。
例えば、何か自分が疑問に思ったことを手帳に書いておきます。そうすると、数日後に、何となく、あれってこういうことなのではないかなと再び思い浮かんでくる。そうしたら、またそれを手帳に書いておく、手帳に書いたことが、5、6個たまった時に、もう一度、その一つ一つがどうやって結びつくかを考えてみると、案外、適切な科学的説明につなげられる事が少なくないのです。
どうやったら論理的に矛盾なく物事がつながるのか。これに何のピースが足りないのか、何をもってきて埋めれば、最後までつながるんだと考える力が、帰納的思考力です。新しい発想や発見をする人は、帰納的思考力に優れているのです。
演繹的で、理論的に優れた人は賢く見えますが、帰納的思考の人は、その賢さに気がつかれにくいのです。普段の理系の勉強は、比較的、演繹的な思考を訓練されています。しかし、帰納的思考力が、演繹的結果を生み出すのであって、最初から原理原則を見つけることは容易ではありません。
ですから、日常の勉強においても、帰納的思考はすごく効果的だと思いますね。そうすると、勉強するだけで、記憶だけじゃなくて、同時にクリエイティブな発想が出てくるんですよね。
山本:なるほど。「左利きなりの思考」といったら、意識しすぎかもしれないですけど、まず案を出して、それをどうすれば論理的になるのか、それを埋める作業を意識して仕事や勉強に取り組んでいくといいんですね。
「脳が言っていること」が正しいと考える
加藤:あと、左利きである私の思考の特徴として、もう一つは、「逆思考」するようになったんですよ。逆思考とは、自分の脳が直感を生み出したんだなっていうふうに、「脳のほうが知ってるんだ」と自覚し直して考えるのです。
「自分の脳は、何を感じて、どういうふうに言ってるんだ」と自分の脳に逆アクセスして問いかけるわけです。逆思考で「自分の脳がそう感じ取って情報処理した結果だから真実に近い」と考えることは、結構正しいことが多いんです。
実際によく考えてみると、脳の右脳側をよく働かせて、不可欠なピースを選び出すコツを、左利きの人は得意なのです。左脳と右脳の両方から答えを導くので、むしろ、自分の脳が処理したことの自覚に時間をかけることによって、自分で自分の脳を伸ばせて、自分の中で完結できるわけです。
山本:例えば、「よし、来月、沖縄に行こう」と直感で思ったときに、なんで来月、沖縄行こうって思ったんだと、直感に至った背景とか、そういったものを自分なりに考えてみたりということが一つ、左利きなりの脳の使い方なんですかね。自分の直感の背景にあるものは何だというふうに探っていくと。
加藤:そういうことです。もっと言うと、それを9割の右利きの人に聞いてみた時に、それって、あなたがおかしいよねっていうふうに言われて、納得してしまうと、自分の脳の感覚が育たないんですよ。
つまり、せっかく自分の脳が10分の1の確率で特別に育ち始めているんだから、それを10分の9の右利きの人たちに聞いても答えが合わないんです。
だからこそ、10分の1の孤独がうまれるんだけれども、できるだけ自己完結するようにやっていくと、そっちのほうが自分なりの答えが出しやすいのかなと思います。
山本:要は左利きが出す案を右利きに否定されるぐらいだったら、この案は自分で素晴らしいと褒めたたえて、その背景にあるものを探っていったほうがよっぽどいいと。
加藤:そういうことです。
山本:では、全国の左利きの皆さん、そうしていきましょう。
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。
株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
ダイヤモンド社18年新卒入社。ダイヤモンド編集部の記者で「ダイヤモンド・オンライン」や「週刊ダイヤモンド」に記事を執筆。幼少期に右利きへの矯正で話さなくなったことがある。現在は左利きでおしゃべり。