発売即重版が決定した『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)。
著者の脳内科医・加藤俊徳氏によると、左利きと右利きでは「脳の仕組み」が違うといいます。それはいったい、どんな違いなのか……。「左利きの疑問」を解き明かすため、加藤氏と神奈川県相模原市で左利きグッズ専門店を経営する浦上裕生氏の特別対談を行いました。(構成・吉田瑞希)

左利きと右利きの「空間認識力」決定的な差Photo: Adobe Stock

そもそも、なぜ「左利き専門グッズ」?

浦上裕生氏(以下、浦上):私は、菊屋浦上商事という文房具屋の3代目です。左利き専門店になった理由は、実は弟なんですよ。弟が、テスト前にこっそり紙工作をしていたんですね。それで、手を切ってしまって、親が怒ったんです。

 でも、なんで手を切ったんだろうって考えたときに、息子が左利きだと気付いていたのに、左利き用のカッターを渡してなかった。そういう人たち、いっぱいいるんじゃないのと。ただ売るのではなく、そういった個人に合った道具を売ることが大事なんだと気付いて、そこで初めてちょっとしたコーナーを作ったんですよ。

 ちまちまと売ってたものが、ポツポツと定期的に売れるようになって、2000年に専門コーナーになりました。現在のコーナでは書籍『すごい左利き』も取り扱っています。すごくおもしろかったです。

加藤俊徳先生(以下、加藤):ありがとうございます。

左利きの空間能力とは?

浦上:加藤先生に質問したかったことの一つなんですけど、左利きの人って、よく空間能力が高いと言われるじゃないですか。数学で言う代数幾何だったり、要は三次元の頭の感覚です。アイデアがあるとかではなく、自分の頭の中で立体ピラミッドを描くことができると言われますよね。

 すでに引退されていますが、体操の白井健三選手はオリジナルの技を多く開発していて、それは左利きも関係しているんじゃないかと、私は思っているんです。左利きの人は実際に、空間能力が高いのでしょうか?

加藤:そうかもしれませんね。脳科学的に言うと、脳は右脳と左脳があって、手を使うと、空間認知機能を担う脳番地を刺激するんですよ。そして右脳は、目の前に広がる左右両方の空間を見ているんじゃないかという説があるんです。左脳は、反対側だけを見てる。つまり右脳は、左右両方の空間に対して意識を向けているけれど、左脳は右側しか見ていない

 これは難しい言葉で、半側空間無視という、主に損傷によって引き起こされる脳機能障害があります。目の前の空間の半分を無視するということで、それは、左脳の損傷では起きにくく、右脳の損傷だと起こりやすいのです。

 右脳が両方の空間に対して注意を向けているので、右脳を損傷すると、左側が見えない。一方、左脳が損傷したときは、右脳の働きに問題がなければ、ほとんど空間は無視されません。

 このように、左側の空間に注意を向ける能力が重要で、左利きの場合、この能力が必然的にアップするのです

左脳の役割を右脳でカバーする

浦上:ある意味、左脳のパワーを右脳でカバーするということですよね。

加藤:そういうことですね。つまり右脳は、もともと注意を向けることに、すごく関係しているんです。だから左手を使うことによって、目の前の視野に非常に注意がいく。ですから左利きの人は、意外に右側も注意してるんですよ。これは恐らく、本人、一人一人は自覚がありません。人はみんな、自分と同じように注意を向けていると考えるからです。でも、ちがうんです。右利きの人は、右側により注意を向けてる意識はなく、でも実際は左側を見逃しやすいんです。

 私の場合は、強い左利きを書字だけ右手に自分で矯正しました。しかし、空間への注意は両サイド意識が強く、やはり左優位です。以前、食事の時は右手に矯正していたのですが、最近は、空間への意識を右側に強く向けたいときだけ、右手にしています。

浦上:なるほど。スポーツ選手でも右利きなのに、左手を使って訓練して空間能力を高めてる人って結構いるんですよ。私が知ってるのは、ソフトボールの上野由岐子投手や宮里藍選手。宮里藍選手は、右で100回打ったら、左で30回打つそうです。そうすると左右のバランスができると。

 あと、すごいのがダルビッシュ有選手なんですよ。動画で見たんですけど、左投球でも直球130キロぐらい投げ、変化急もすごく曲がるだけでなくコントロールもいいんですよ。左投球については、体のバランスを鍛えるためというコメントでした。でもやっぱり、空間能力もすごく高いんですよね。

左利きと右利きの「空間認識力」決定的な差『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。 株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。 発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。 14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
左利きと右利きの「空間認識力」決定的な差浦上裕生(うらかみ・ひろお)
左利きグッズ専門店として数多くのメディアで紹介される「菊屋浦上商事株式会社(神奈川県相模原市)」文具店の三代目。メーカー数社と左利き商品の充実を目的とした「レフティ21プロジェクト」の代表を務めるだけでなく、地域活動などに数多く携わり様々なイベントを仕掛ける。またSDGs活動に関する多くの講演や職場体験学習の指導から学んだことを活かすため、地域団体「SDGsコネクトさがみはら」を2021年11月に設立。さらに相模原事務用品協同組合の代表理事として『SDGs本を読んで未来を絵にするコンクール』を12月に開催を予定している。