下級財である公共交通の
利用減少がもたらすもの

 ライドシェアが日本より先に一般化したアメリカでは、主要都市での交通渋滞が激化している。ライドシェアの一般化で下級財としての公共交通の使用が減少しているためだ。

 少し古い資料だが、2019年のScience Advances誌によると、サンフランシスコの交通渋滞は2010年~2016年で60%増加した。増加分の過半がライドシェアによるものらしい。

 自動車はCO2効率が悪い。国交省資料によると、1人を1km運ぶための必要CO2排出量は、自動車132g、航空124g、バス90g、鉄道25gとなっている。

 我が国では、官民挙げて持続可能な社会の創造を目指している。交通における自動車の比率上昇は、社会の持続可能性と反比例する。

 ライドシェアによる便利な社会と、持続性ある社会は別の時空ではない。利便性と持続性という二律背反の命題を、どのように弁証法的に解決するかが求められている。

通行料課税が計画されている
ニューヨーク・マンハッタン

 ニューヨークでもライドシェア導入後、渋滞が酷くなった。これを受け同市では、「混雑税プログラム」の導入を計画している。

 2024年春を目途に、マンハッタンのミッドタウンに入るドライバーに対し通行料が課される。主な目的は交通量や大気汚染の改善に加え、公共交通への投資資金の確保だ。

 通行料は時間帯で異なる。ラッシュアワーには23米ドル、オフピークには17米ドルが課されるようだ。同市は通行料導入によって年間10億米ドルの収入を期待している。

 交通量の減少は生活の質を高める。最大1700万トンの温室効果ガスの削減によって人々の健康状態が向上し、医療費が1億ドル節約されると同市は試算している。

 渋滞増加が引き起こすのは、CO2問題や健康問題だけではない。既に交通事故死の増加も報道されている。緊急車両の到着遅延など様々な問題も想定される。

 ライドシェアに賛成する政治家の中には、従来から環境問題を訴えてきた政治家も含まれている。彼らはライドシェアと環境という矛盾する論点をどう乗り越えるのだろうか。

渋滞に巻き込まれる
生産性が高い人たち

 社会の持続性だけでなく、産業の生産性改善も我が国の課題だ。ライドシェア増加による交通渋滞は、社会全体の生産性改善を阻害する可能性がある。

 これは渋滞に巻き込まれている個々人の時間価値が大きく異なるためだ。同一人物であっても、日時やタイミングによって時間価値が異なる点にも注意が必要だ。

 都市部で高い生産性を実現しているホワイトカラーを想起してみよう。敏腕の弁護士・会計士・税理士、著名な医師や経営者、人気の大学教授、クリエイティブ系などだろうか。

 彼らにとって可能な限り多くの重要人物と会うことは重要課題だ。タイミングもしかり。ウェブやメールでは交換できない秘匿性の高い新鮮な情報ほど高い生産性を生む。

 渋滞には、高い生産性の人と物見遊山で大都市に出てきた学生など、生産性が異なる個人が混在する。渋滞による機会費用は、前者にとって甚大である一方、後者には限定的だ。

 ライドシェアの普及で生産性の高くない人も気軽にライドシェアを使う。それが渋滞を生み出し、生産性の高い人の経済活動を阻害することにつながる。

ライドシェアが抱える
負の外部性を議論の中心に

 ライドシェアの普及は公共交通の利用を減少させ、公共交通の収支悪化を加速させる。公共交通の更新投資や新設投資は劣後し、利便性や治安の悪化が見込まれる。

 公共交通が悪化すると、人々はますますライドシェアを使い、公共交通の利用は忌避される。そして下級財である公共交通は更なる下級な財へと沈んでいく。

 ネット上の議論では物理的空間が忘却されがちだ。しかし、ライドシェアには例外なく物理的時空が張り付いている。物理的時空では全ての存在が外部性から逃れられない。

 ライドシェアについては、交通事故死、住民の健康、医療費、CO2排出量、生産性低下、公共交通の悪化など、多面的な負の外部性を議論の中心に置くべきではなかろうか。

(フロンティア・マネジメント株式会社 代表取締役 松岡真宏)

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