巷では「DX」「DX」の大合唱が呪文のように続いています。しかし現場からは、「仕事が増えただけで売上はなかなか上がらない」という悲鳴が聞こえてきます。そんな悲劇を解決すべく、1000社以上の問題を解決してきたITコンサルタント・今木智隆氏が書き下ろしたのが『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)です。本連載では、さまざまなデジタルの「あるある」失敗事例を挙げながら、なぜそうなってしまうのか、どうしたら問題を解決できるのかをわかりやすく丁寧に解説していきます。ECサイトやSNSの運営に携わっている現場の方、デジタル広告やデジタルマーケティングに関わっている現場の方はぜひご一読ください。

無理やり作られたレポートがデータとして蓄積されていく企業ホラーPhoto: Adobe Stock

「業績が好調なことをデータで示せ」というもともと無理な注文

 人間というのは、騙されやすい存在です。詐欺師だけでなく、自分自身の作ったレポートにすら騙されてしまいます。
 私が聞いた中では、とある有名ブランドが自社の業績について分析を行おうとしたエピソードが印象的でした。データ分析の担当者は、上司から「業績が好調なことをデータで示せ」と言われたというのですね。彼は適切なデータを社内で見つけることができず、海外の支社にまで問い合わせてデータを入手してレポートを作ったそうです。

 根本的なことを言えば、そもそも業績が好調でないから、それを示すデータがなかっただけの話。成長が鈍化しているのに、何とかうまく行っているように見せかけようと、無理矢理データを集めてレポートを作り、それを元に経営陣や株主への説明が行われる、そんなことがさまざまな組織で行われています。
 厄介なことに、いったんレポートとして提出されてしまうと、そこに書かれている内容が真実として組織内に浸透してしまいます。
 経営陣も業績が芳しくないことは言わずに、そのレポートに書かれている内容を元に、施策を立てるよう各部署に通達します。

「なるほど、中国にはまだ販売機会がたくさんありそうだ」、「課題を解決すれば、業績は120パーセントになりそうだ」、各部署の担当者はそんな風に考えて施策を立てるわけですが、元々のレポートに間違いや誇張があるわけですから、それに基づいた施策もうまく行くはずがありません。

 担当者が部署を異動したり役員が替わったりすれば、レポートを作った意図は忘れられ、データも検証されることなくそのまま残り続ける……。
 なかなか怖い企業ホラーですね。

※本稿は『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。