敷島製パン 営業DX推進部 営業業務DX推進グループ 男成祐香さん敷島製パン 営業DX推進部 営業業務DX推進グループ 男成祐香さん Photo by Mayumi Sakai

創業103年、「超熟のPasco」でおなじみ敷島製パンの営業部が変わろうとしている。きっかけはコロナ禍だ。小売店との対面打ち合わせは制限され、店頭での試食販売もできなくなった。今までとは違うやり方で、各店舗へのきめ細やかなフォローを継続していく必要があった。敷島製パンは、営業業務の見直しを図る「営業DX推進部」を立ち上げた。デジタルで営業をどうアップデートしているのか。同部の男成祐香さんに聞いた。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

お客さまの良きパートナーであるためにはどうすれば?
コロナ禍が問うた営業のあり方

 一度目の緊急事態宣言が出された2020年4~5月は、ステイホームで内食が進み、食パンの売り上げは好調だった。一方、顧客であるスーパーやドラッグストアは、事態が日々刻々と変化する中、感染対策や店舗運営に追われていた。

 男成さんはこの頃、営業の最前線から手を上げて、営業DX推進部に異動した。

「当時はほぼ一対一でお客さまを担当していて、私のお客さまのことは私以外よく分からないという状態でした。でも、これまでとは全く違う状況でサービスレベルを維持するには、チームや仕組みでお客さまの課題に向き合えるよう社内を整備する必要がありました。お客さまの良きパートナーであれ――尊敬する営業の上司のモットーに共感し、私もそうありたいと思いながら営業をしてきました。お客さまが大変なとき、自社の売り上げは良いからといって寄り添えない営業は、良きパートナーではありません。コロナが明けた頃にはもう必要としてもらえなくなっているのでは、という危機感がありました」

 男成さんらは今、営業のルーチンワークの自動化とノウハウの形式化に取り組んでいる。営業はよく「個人商店」にも例えられるが、経験や素養に基づき無意識にやっていることも多く、属人的になりがちだ。営業の暗黙知を形式知化し、お客さまにより良い製品・サービスを届ける仕組みを作りたい――まず着目したのは、データだった。

 敷島製パンでは、以前からDomo(ドーモ)を活用し、全工場のデータを集計・加工してレポートを自動配信するなど、データ活用に取り組んでいた。Domoとは、いわゆるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの一種で、企業が蓄積したさまざまなデータを可視化・分析することで意思決定をサポートする。直感的な操作が特徴で、最近では営業やカスタマーサクセスといった非IT部門での導入も増えている。

「Domoを営業でも使ってみようと。DXと名の付く部署に所属していてなんですが、私は昔からITツールが苦手で最初は泣きそうになりました。でも、そんな私でも少し触ったら『なんとかできた!』と。これならみんなもできるんじゃないかと思いました」