当面の焦点は経済対策規模
PB黒字化達成で4つのポイント

 従来、政府が財政健全化目標として掲げてきたのが国・地方の、国債や地方債による歳入や利払いなどを除いたPBの黒字化だ。

 直近の今年6月に閣議決定された骨太方針でも、PB黒字化を目指すと明記されている。

 PB黒字化が初めて目標として掲げられたのは2006年で、当初は11年度の達成を目指していた。しかし、リーマンショックなどのさまざまな理由で達成できず、何度も先送りされてきた。

 それが、7月公表の中長期試算では、25年度のPB(復旧・復興対策及びGX対策の経費及び財源の金額を除いたベース)黒字幅が0.8兆円と見込まれている。

 だがこの黒字幅は、100兆円を優に超える国と地方の歳入・歳出と比較すると相当に小さい。わずかな政策変更や景気変動で、赤字に転落してしまう可能性は高い。

 石破首相が自民党総裁選の際に掲げた政策集を見ると、財政健全化の重要性をいう一方で、「経済あっての財政」という考え方が打ち出されている。首相就任後の会見などでも、デフレ脱却を確実にする経済政策を語っていることを考えると、財政についても柔軟な運営を目指すようだ。

 果たして25年度のPB黒字化は達成されるのか。ポイントである(1)24年度の経済対策(補正予算)、(2)25年度予算の歳入、(3)同予算の歳出、(4)25年度の経済対策の4つに焦点を当てて検討した。結論を先取りすると、PB黒字化達成の可能性は低い。

経済対策は4兆~5兆円規模が許容範囲か
23年度と同規模で実施ならPB大幅悪化

 24年度の経済対策では、石破首相は物価高対策などを盛り込んだ24年度補正予算を年内に編成し、実施する方針を示している。

 ただ24年度の経済対策であっても、年度内に全てが消化されるわけではなく、一部は25年度に繰り越されて実施される。繰り越し分の歳出は次年度のPBの歳出に計算されるので、その分25年度の歳出は増加しPBが悪化することになる。

 過去08~19年度の経済対策の歳出規模は(国費ベース。新型コロナウイルス感染拡大期を除く)1兆円から15兆円と幅広い。今回の経済対策の歳出規模はどの程度になるかが注目される。

 コロナ禍前では、歳出規模と景気(GDP(国内総生産)ギャップ)との間にはおおむね「-1.5兆円×GDPギャップ×100+3.5兆円」の関係が見られた(図表1)。

 直近の24年4~6月期のGDPギャップは▲0.6%だ。この関係式に基づくと、今回の経済対策での歳出規模は4兆円台半ばとなる計算だ(なお経済対策によって実務を行う地方の歳出も増加するが、その財源は国からの移転で手当てされるため、地方のPBは影響を受けないと想定した)。

 新型コロナウイルス感染拡大期はこの関係が崩れ、対策の規模は数十兆円規模に上った。新型コロナウイルスが感染症法上で「5類」に移行した後の23年度もこの傾向が続き、歳出が17兆円程度に達する経済対策が実施された。当時のGDPギャップ(▲0.5%)に基づくと4兆円強となり、かなり大規模なものだったといえる。

 石破首相は、財政規律に一定の目配りをしている印象もあるが、発言からはデフレ脱却や経済成長を優先しているようだ。今回の経済対策は物価高や金利上昇への緊急対策という名目であり、大規模な給付金などは想定されていないが、昨年度の規模を考えると、関係式から機械的に計算される4兆円台半ばから上振れする可能性がある。

 仮に経済対策の歳出規模が08年度以降(コロナ禍期間を除く)の平均である7.2兆円程度となり、その半分が次年度に繰り越されると仮定すると、25年度のPBは3.6兆円程度悪化する。これは内閣府の試算が想定している黒字幅0.8兆円を大きく上回り、経済対策だけで黒字化が困難になることが分かる。

25年度、防衛増税が先送りなら
1兆円程度のPB悪化の可能性

 25年度予算の歳入面でもPB黒字化を困難にする要素がある。

 岸田前政権下で政府・与党は、防衛力強化のため法人税を中心に所得税・たばこ税を含めて1兆円の増税を決めた。内閣府の試算では25年度の歳入に同額が加えられている。石破首相も防衛増税に賛同の立場で、政策集にも「メリハリのある法人税体系の構築を目指します」とあり、法人税改革に意欲的だ。

 しかし、防衛増税の導入時期はまだ確定していない。法律では「適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる」(所得税法等の一部を改正する法律、附則第74条)とされているだけだ。25年度に防衛増税が実施されるためには、年内に政府・与党で結論を出す必要がある。

 石破首相は党税調で議論を進める意向を示しているが、共同通信の総裁選政策アンケートでは「基本的に現行方針を維持するが、増税については不断に検討、見直しをする」と回答し、修正の可能性を示唆している。「デフレ脱却最優先の経済・財政運営」を掲げているため、増税がデフレ圧力になることなどを懸念していると考えられる。

 また、増税を実施するためには、年内までに政府・与党内で結論を出さなければならないが、衆院選の投開票日が10月27日であることを考えると、議論する時間が十分にあるとはいい難い。防衛増税が26年度以降にずれ込む場合、25年度の歳入は内閣府の試算から1兆円減少する。

石破政権の重点政策どう反映
地方創生などの歳出増はどの程度か

 25年度予算の歳出面はどうだろうか。今年9月にすでに各省庁から概算要求が提出されているが、これが石破首相の掲げる政策の下、どのように25年度予算に盛り込まれるかだ。

 まず、概算要求の歳出額は117.6兆円(事項要求を含まないベース)だ。内閣府の試算では、25年度の歳出額は116.3兆円であり、概算要求はこれを1.3兆円上回っている。

 ただし、国債の償還や利払い費はPBの計算に含まれないため、これらを除いた歳出(PB対象経費)で見ると、PB対象経費の概算要求額は88.7兆円で、内閣府の試算が89.7兆円だ。概算要求額の方が1.0兆円少ない。

 年末にかけて政府内で予算査定・折衝が行われ、本予算の歳出は概算要求より少なくなるのが一般的だ。過去10年(新型コロナウイルス感染拡大期に編成された21~23年度を除く)の概算要求と本予算でPB対象経費を見ると、本予算の方が0.3~5.5%程度少ない。

 これを当てはめれば、25年度のPB対象経費は概算要求から0.3兆~4.9兆円程度圧縮され得る。ただ近年は概算要求と本予算の乖離(かいり)が縮小しており、24年度は1.4%だった。25年度も同程度なら、PB対象経費の圧縮幅は1.2兆円程度となる。

 石破首相の就任によって歳出はどの程度、影響を受けるだろうか。

 前述の「政策集」には、「自衛官の給与の早急な引き上げ」や「防災省(庁)の創設」「地方創生2.0」「令和の教育改革」などが掲げられ、首相就任後も石破氏は会見などで、これらを実行する意向を語っている。

 しかし現状では、地方創生での「地方への交付金倍増」など一部を除いては歳出規模が分かるものはほとんどない。全体額の推計は困難なため、以下では、歳出規模が定量的に推計できそうなものについて検証した。

 教育改革の項目の一つである「政府主導の人的資源への投資」については、具体的な目標が設定され、「OECD(経済協力開発機構)水準を目指して教育予算を拡充」するとされている。

 OECDによると、大学などの高等教育に対する日本の財政支出はGDP比で0.5%だ(20年)。これをOECD平均の1.0%まで引き上げるなら、3兆円程度の歳出増が必要になる。25年度予算に全額を計上するのは現実的ではないが、数年かけて段階的に歳出を増やしていくことはあり得る。

 岸田前政権下では、防衛力強化や少子化対策の経費を3~4年かけて増やす手法がとられた。石破政権でも同様の手法が検討される可能性がある。

 また石破首相は所信表明演説で、「地方創生の交付金」について、本予算ベースでの倍増を目指すと述べた。地方創生の交付金とは「デジタル田園都市国家構想交付金」(過去の地方創生推進交付金と地方創生整備推進交付金)を指しているとみられ、これまで本予算ベースで1000億円だった。倍増なら1000億円の歳出増だ。

 なお政策集でも「大規模な地方創生策」を講じると明記されており、地方創生に大胆な予算措置が組まれる可能性もある。例えば、23年度の経済対策では1.6兆円規模の「重点支援地方交付金」が創設された。本予算でこれほどの規模の措置が講じられるとは思えないが、地方創生に関する歳出が増える可能性はある。

25年度に経済対策を求める声が高まれば、
PB黒字化はいっそう困難に

 4つ目のPB黒字化達成のポイントは、25年度にどのような経済対策が実施されるかだ。

 現段階では明確なことはいえないが、25年度の景気の下振れリスクは無視できない。例えば、24年度に実施された3.3兆円規模の定額減税は1年限りで終了となるため、前年度と比較すると、25年度は、防衛増税が実施された場合、それと合わせて4兆円を超える増税となり、景気に下押し圧力がかかる。さらに、米国経済の先行きも不透明であり、海外要因から日本の景気が減速する恐れがある。

 過去を振り返ると、リーマンショックが起きた08年度から23年度までの16年間で、経済対策が講じられなかったのは15、17、18年度の3年だけだ。25年度も経済対策が実施される可能性は十分にある。そうなれば、PBの悪化要因となる。

PB黒字化の可能性は残るが、
赤字継続の可能性が高い

 以上をまとめたものが図表2だ。「蓋然(がいぜん)性の高いシナリオ(自然体シナリオ)」では、25年度のPBは6兆円程度の赤字が予想される。

 25年度での「PB黒字実現シナリオ」の達成のためには、24年度の経済対策の規模を4兆円台に抑え、かつ25年度に防衛増税を行う必要がある。また、総裁選で掲げた重点政策も抑制し25年度の経済対策は控えることも求められる。

 しかし、石破首相のこれまでの発言などを見る限り、足元では財政健全化よりデフレ脱却と経済成長を優先する姿勢だ。経済対策の規模を大幅に縮小したり、大胆な歳出削減に取り組んだりするようなことは考えにくい。

 まずは24年度の経済対策、補正予算に注目する必要があるが、25年度のPB黒字化はやはり困難だろう。石破政権下でも、財政健全化目標が先送りされる可能性は高そうだ。

(大和総研経済調査部シニアエコノミスト 末吉孝行)

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