自分は将来どうなるだろう……。そんな不安を持つ人は少なくないのではないだろうか。「いつまで第一線でいられるか」「いつまで他人と競えばいいのか」「いまいる友達は60歳になっても友達か」「気力体力はどうなるか」「お金は?」「いまのうちにやるべきことは?」など疑問がつきない。そこで本連載では、2025年に60歳を迎える奥田民生の10年ぶりの本『59-60 奥田民生の仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル』の中から、民生流の「心の持ち方、生きるヒント」を紹介する。「力まず自然体でカッコいい大人」代表の奥田民生は、これまでどのように考え、どのように働き、どのように周りとの関係を築いてきたのか。その言葉を見ていこう。(構成/ダイヤモンド社・石塚理恵子)

奥田民生が「仕事なんてそこそこでいい」と言う深い理由
Photo by Takahiro Otsuji

仕事なんて「8位」くらいがちょうどいい

 世間が抱いている俺のイメージは“力まない大人”らしいけど、俺だってデビューしたての若い頃は、人並みに「一番」を意識したことくらいある。

 一番というのは俺らの場合、オリコンチャートで1位になるとか、アルバムがミリオンセラーになるとか、そういうことかもしれないけど、もちろんそうなったらうれしいし、そうなったらいいなと、思わなかったわけじゃない。

 でも本音を言えば俺は「1位」にそこまで興味がない。

 音楽なんて1位、2位と順位を決められるものではないし、チャートの順位で良し悪しが判断されるものでもない。

 だから俺は割と早い段階で、そういう意味での仕事なんて「そこそこでいい」と思うようになっていた。

「そこそこ」はどこにあるのか?

「そこそこ」っていうのは、俺の場合「次のアルバムを作っていいよ」と言われるだとか、首を切られずに契約が継続になるだとか、つまり音楽にお金を出してもらえることだけど、給料をもらえているということは誰だって「そこそこ仕事をしてる」ということだから、仕事なんてそれで十分なんじゃないかと思う。

 ライブの動員数とか、グッズの売り上げとかも「そこそこ」あればそれでいい。

 俺は音楽を続けられれば十分だ。

「1位」<「続けること」

 昔はたしかに日本武道館で記念にライブが1回でもできたらいいなと思っていたし、その夢がかなった後は、「毎年やれたらいいな」と思っていた。

 でも俺は、「東京ドームでやりたい」とは思わなかった。

「ドームでライブ」って成功者みたいでかっこいいけど、俺にとってはデカすぎて「そこそこ」を超えている。

「ドームでライブ」や「チャートの1位」が仕事のモチベーションになる人はもちろんいいけど、俺の場合、仕事は「1位になる」より「続けられること」をモチベーションにしてきたから、そういうことには興味がないのだ。

1位は面倒くさい

「1位」は、面倒くさくも感じてしまう。

 1位になったらそれを続けるプレッシャーもあるだろうし、努力も必要。

 周りの期待も半端ないし、1位なんて長く続けられるものでもない。

 2位に落ちたときのショックもデカい。

 アイドルやトップスターは周りの目があるから、「トップだったのに落ちた」となれば、勝手に「終わった」って思われて、生きづらくもなってしまう。

 だから俺は「8位」くらいがちょうどいい。

 いや、そんなことを言うと9位の人に悪いから、「28位」くらいがいいかもしれない。

1位も28位も同じ

 仕事観って「歳をとったら変わるかも」って思っていたけど、俺の場合、ここ数十年変わってないから、そうそう変わるものでもない気がする。

「太く短く」「細く長く」、どっちもアリ。

 ただ俺の場合は、1位でも28位でも人生はそんなに変わらないから、この歳になっても「仕事なんてそこそこでいい」と思っている。

(本稿は奥田民生『59-60 奥田民生の仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル』からの抜粋記事です。)