必要は発明の母かもしれないが、株価を急落させる原因に火を付けるのは無理なように思われた。
だが、27日朝はそうではなかった。米国市場は中国の人工知能(AI)新興企業ディープシーク(深度求索)に対する新たな懸念で始まった。同社は先週末、AIモデルで飛躍的進歩を遂げ、AI技術を生んだ米国の先進モデルとほぼ同等の性能を達成したと発表した。
厄介なのは、ディープシークが同社の最新モデルの一つについて、560万ドル(約8億7000万円)の学習コストで訓練したと主張していることだ。同じ作業に太平洋のこちら側(米国)で使われている費用に比べるとわずかな額だ。米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)によると、2023年終盤に提供が開始された同社の「GPT-4」の訓練には、1億ドル余りの費用がかかったという。米アンソロピックのダリオ・アモデイCEOは昨年、ポッドキャストで一部モデルの訓練費用が10億ドルに近づいていると述べていた。
これほどに巨額なコストがかかることは、エヌビディアやブロードコム、マーベルといった米企業にとって非常に喜ばしいことだった。これら企業の市場価値は、AI用半導体チップやサービスへの需要が爆発的に伸びたことで急激に高まったからだ。AI分野への参入コストの高さや、米政府の制裁によって先進的なAIチップの中国企業への販売が制限されたことも、マイクロソフトやアマゾン・ドット・コム、グーグル、メタ・プラットフォームズといった米ハイテク大手にとっては競争する上で「堀」の役割を果たした。こうした企業は、高価なAIネットワークを大規模に構築するための資金を十分に持つ数少ない企業だ。
このため、ディープシークが突破口を開いたことは、時価総額が1兆ドルを超えるほぼすべての企業にとって、特に悪い知らせのように聞こえる。エヌビディアとブロードコムの株価は27日の取引でそれぞれ約17%下落し、半導体セクターの急落を主導した。同セクターの主要企業で構成されるフィラデルフィア半導体株指数の下げ幅は9%を超えた。AIベースのクラウドコンピューティング・サービス提供で最前線に立っているとみられるマイクロソフトは2%、グーグル親会社のアルファベットは4%それぞれ下落した。ハイテク株を中心に構成されるナスダック総合指数は3%下落した。一方、優良株で構成されるダウ工業株30種平均は上昇した。
こうした投げ売り状態は行き過ぎだと思われる。ディープシークの主張には依然、多くの不明な点がある。その中には、制裁の影響下にありながら、どのような種類の半導体にアクセスできたのかという点も含まれる。