生産性改善の果実が正社員にも非正規雇用にも分配されないから、停滞が続くのです。

 2024年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者ダロン・アセモグルとジェームズ・A・ロビンソンは『国家はなぜ衰退するのか』で、収奪的な社会制度では一国経済は衰退すると分析しました。気付かないうちに、日本は収奪的社会に向かっています。

過去四半世紀で生産性は30%も上昇
それでも日本の賃金は据え置き

──近年、賃上げが定着してきているとはいえ、いまだに物価の上昇に賃金の伸び率が追い付かない状況は続いていますよね。

 衝撃的事実があります。1998年から23年までの過去四半世紀で、日本の時間当たり生産性は30%上昇しましたが、時間当たり実質賃金は横ばいです(下図①参照)。

 

 同期間における生産性上昇率は、米国50%、ドイツ25%程度、フランス20%程度。日本の生産性の改善は米国に及びませんが、ドイツやフランスより改善しています。フランスの実質賃金は米国に肉薄し、ドイツも実質賃金は上昇しています(下図②参照)。

──日本の場合、生産性が低いから実質賃金を上げることができない、ということではないのですね。

 生産性が上昇しているのに実質賃金に全く反映されていないことが問題です。喫緊の課題は適切な所得分配です。人口減が原因ではなく、実質賃金が増えないから個人消費が増えず、日本は停滞から抜け出せないのです。

──その間、企業は稼いだ利益をしっかりため込みました。利益剰余金は恐ろしい勢いで積み上がっています。

 アベノミクスが始まった13年度に300兆円だった利益剰余金は、23年度に600兆円まで倍増しました(下図③参照)。

 一方、人件費の増加はごくわずかです。ため込んだ利益は賃上げや国内投資に向かわず、大企業は海外投資を加速させています。

河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長(チーフエコノミスト)こうの・りゅうたろう/1964年生まれ。87年住友銀行(現・三井住友銀行)入行。大和投資顧問、第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。著書に『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)など。専門は、日本経済論、経済政策論。 Photo by Y.W.

──企業が、リスクを取らずに内部留保を蓄積するようになったのはなぜなのでしょう。

 90年代末の銀行危機でメインバンク制が崩壊しました。メインバンクの後ろ盾がなくなり、大企業は長期雇用制を維持するため自己資本を積み上げる必要がありました。

 コストカットのため、正社員のベースアップ(ベア)をゼロに抑え込み、同時に、人件費の一部を変動費に変えるべく、非正規雇用に頼りました。不幸にも危機が繰り返したため、国内ではコストカットが経営の基本になり、自己資本が積み上がった今も、産業界では攻めの経営を選ばず、守りの経営を追求するのが主流です。

(河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長(チーフエコノミスト)インタビュー【後編】『「25年前の部長」の給料を現役部長が超えられない理由』は3月27日木曜日配信予定です。)

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