大規模緩和を終了させた日本銀行の次の一手は何か。日銀の政策に詳しい木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストと河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの徹底討論を前後編の2回にわたり掲載する。前編では、異次元緩和からの政策転換の評価と、今後の政策を左右する景気・物価動向について検証してもらった。(聞き手・構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
異次元緩和終了は評価するが
もっと早く転換すべきだった
――日本銀行のマイナス金利解除など異次元緩和の枠組み終了の決定をどう評価しますか。
木内登英氏 政策転換自体は評価しますがもっと早く動くべきでした。十数年続いた異例の金融緩和は効果よりも副作用の方が大きかったので、2%物価目標にこだわらずに転換すべきでした。
ここ数年、世界的な物価高騰が続く中、日銀が政策を変えなかったことでここまでの円安と物価高が生じ、そのことが生活者への打撃となっています。
実は、今回の政策転換でも、実態は大きくは変わっていません。マイナス金利解除で政策金利が0.1%上がっただけです。YCC(イールド・カーブコントロール、長短金利操作)の撤廃についても、2023年7月の時点ですでにYCCは形骸化していました。国債の買い入れは従来と同じ額で続けますし、ETF(上場投資信託)の新規買い入れは停止しますが日銀のバランスシートには計上されたままです。金融政策の正常化は始まったばかりです。
河野龍太郎氏 植田(和男・日銀総裁)体制での一連の政策転換は評価しますが、私ももっと早く行うべきだったと考えています。
黒田東彦前日銀総裁のとき、政治からの強い要請があった携帯電話料金の引き下げの影響を除くと、21年末時点で2%インフレに達していました。海外中央銀行の利上げを踏まえ、22年の段階で2%のインフレ目標を柔軟に解釈すれば、政策転換は可能だったはずです。
日銀は、超円安を欧米の急激な利上げの影響としていますが、欧米で利下げが意識されるようになっても超円安は続いています。日銀の異次元緩和に対するコミットメントが相当強く効いていたのだと思います。
22年の早い段階で政策転換していれば、1ドル=140円を超える円安は避けられたでしょうし、4%に達するような物価上昇も回避できたでしょう。物価高が原因の23年以降の個人消費の足踏みもなかったと考えます。
木内 政策転換の本質は副作用軽減のように思います。植田総裁の頭の中には転換前の施策の副作用があります。YCCを形骸化した昨年7月から政策転換を始めていたともいえます。
河野 23年7月にYCCの修正をしたときから24年春にマイナス金利も解除するとみていました。年明けから春闘の賃上げが高めになりそうだったので前倒しもあると考えていました。植田総裁にとってこれで1回目の施策一巡といったところでしょうか。とはいえ、わずかな政策修正ですよね。
木内 そうですね。始まったばかりです。
日銀の追加利上げや政策修正のタイミングは、今後の景気や物価の動向に左右される。河野氏は「今後も高めのインフレ率が継続する」と展望する一方、木内氏は「緩やかにインフレ率は低下する」とみる。次ページでは、河野氏と木内氏のそれぞれの持論の根拠と共に、今後の景気・物価の見通しについて徹底検証する。