日本銀行は過去の円高局面において金融緩和の強化で対応してきた。一方、今回の円安局面での金融引き締めには慎重な姿勢を崩しておらず、低い実質金利水準を維持している。円安放置は輸入インフレによる物価上昇をもたらし、消費を抑制する。結果として、持続的な物価の安定を損ねることになり、それは日銀法の理念に抵触するのではないか。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
所得分配をゆがめる金融緩和は
日銀法に抵触
2020年までの過去四半世紀、日本銀行は、円高が急激に進展すると、デフレを回避すべく、金融緩和措置で対応していた。既に円高が進行した1995年には政策金利を0.5%にまで引き下げ、事実上のゼロ金利政策に達していたが、その後、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げをすると、日銀が非伝統的な金融政策を繰り返したのは、ほかならぬ円高の回避のためだった。
22年には円安局面が始まったが、当初は円安による輸入物価上昇は一時的として、金融引き締めには相当に慎重な姿勢を日銀は見せていた。筆者自身は、22年3月のFRBの利上げ開始以降、2%インフレ目標を柔軟に解釈することで、日銀も早期に利上げを開始すべきだと論じてきた。
既に21年11月の段階で、スマホ料金の影響を除くと、CPI(消費者物価指数)コア(生産食品を除いたベース)の前年比は2%に達し、その後、22年4月以降は、CPIコアが2%を継続的に上回るようになっていたからだ。ただ、為替変動に対し金融調節で対応するのは、新興国のようなものだと、日銀関係者からは反論されていた。
しかし、結局、為替レートが大きく円安に振れると、円高時と同様、日銀は金融政策で対応しているように見える。為替レートと金融政策の関係をどう考えればよいのだろうか。次ページで考察する。