米国や欧州の高インフレはいつ収束するのか。ピークの見えない日本の物価上昇はどうなるのか。インフレが収まったときに、以前のような低インフレ・低金利・低成長に戻るのか。特集『「お金」大全』(全17回)の#6では、物価分析の泰斗である渡辺努・東京大学教授と著名エコノミストである河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長に徹底討論してもらった。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
労働市場に戻ってこない労働者
供給減少と財政金融政策で物価上昇
――欧米など海外を中心とした高インフレの要因はどこにあるのですか。
渡辺 供給側の要因として、今まで通り働くことをちゅうちょする労働者が増えていることが挙げられます。労働者が十分に確保できないことでモノやサービスの供給が十分にできません。また、ちゅうちょしている人を働かせようとすると賃金を上げなければならず、インフレ圧力となります。
消費者の態度も変わってきています。コロナ禍前、米国や日本をはじめとする先進国ではサービス消費が増え続けるという傾向が50年以上にわたって続いてきました。
それが反転してモノの消費の比重が重くなるということが起きています。新型コロナウイルスの拡大初期にそれは顕著になりました。しかしコロナの感染が収まってきていてもモノに需要が集中しています。モノ産業では需要が増えているのに供給が追い付かないことで物価が上がっているわけです。
河野 私はマクロ経済政策の影響も大きいと考えています。2021年3月以降、ワクチン接種も進んだことで米国では経済活動が再開しました。
そこに、米バイデン政権は対GDP(国内総生産)比で10%規模の財政出動をしました。量的緩和が継続されている中、事実上の中央銀行による財政ファイナンスでその資金が賄われました。財政金融政策でインフレを押し上げたといえます。
米国では、年配の労働者の一部が労働市場に戻ってきていません。コロナ禍前と比べると労働参加率は1%強低下し、その結果、労働力が2%弱減少しました。労働供給の減少に経済活動再開と大規模財政による需要増加が加わり、高インフレにつながりました。
コロナ禍を契機に比較的高所得の人たちがリモートワークをするようになり、郊外に住宅を購入し、耐久消費財の購入が増えました。代わりにサービス消費が減少していたわけですが、経済活動再開とともに、サービス消費が大きく盛り返しています。
サービス業は人手不足ですから賃金が急上昇し、サービス価格の上昇率はなかなか鈍化しません。今後は、財価格が下落しても、サービス価格の上昇率が低下しないことで物価全体の伸び率も下げ渋ることになるとみています。
――なぜ、日本のインフレ率は欧米より低いのでしょうか。