新型コロナウイルス感染拡大による経済活動抑制が終わり、拡大すると予想された個人消費。しかし、現実には足踏み状態が続いている。停滞をもたらした主因は“異次元緩和”、日銀の超金融緩和政策の継続にある。そのメカニズムを解説する。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
円安インフレが家計の実質購買力を
落とし個人消費は足踏み
政府・日本銀行の2023年度の景気シナリオにおける最大の誤算は、個人消費の足踏みだろう。GDP(国内総生産)統計で、個人消費は23年1~3月期に前期比0.9%と高い伸びを見せた後、4~6月期は同マイナス0.6%、7~9月期も同マイナス0.2%と減少した。
コロナ禍が収束し、人々が警戒を解き、経済が再開されれば、米国や欧州ほどではないにしても、日本でもペントアップ需要(繰り越し需要)で、個人消費は堅調に回復すると期待されていたはずだ。しかし、個人消費はコロナ禍前の水準をいまだに下回る。一体何が起こっているのか。
個人消費が足踏みする理由は、明らかだ。円安インフレによって、家計の実質購買力が大きく抑えられているのである。
名目賃金は上昇し、雇用者報酬もコロナ禍前の19年10~12月期と比べ4.9%も増加したが、物価高に全く追い付かず、実質雇用者報酬は同期間から3.8%も減少している。名目賃金が増えても、実質雇用者報酬がこれほど減少していては、多くの人は、懐が寂しくなったと感じているはずだ。
コロナ禍をきっかけに、「強制貯蓄」なる言葉が人口に膾炙するようになった。強制貯蓄とは、経済活動が止まり、旅行や外食などでお金を使うことができず、積み上がっていた貯蓄のことだが、一体どこに行ったのか。
米国では、継続的な利上げにもかかわらず、個人消費が堅調を続けていたのは、政府の現金給付だけでなく、巣ごもり下で旅行や外食にも行けず、人々の貯蓄が大きく積み上がり、繰り越し需要の原資となったからだった。この強い個人消費がグローバルインフレをもたらした。
日本も23年度に個人消費の堅調な回復が期待されていたのは、強制貯蓄が繰り越し需要の原資になると考えられていたからだ。しかし、日本の強制貯蓄は、消費に向かう前に、物価高によって大きく食われてしまった。もちろん、実質雇用者報酬が大幅に減少しても、個人消費の水準がわずかな減少にとどまったのは、強制貯蓄の存在があったから、ともいえる。
日本の個人消費を足踏みさせる要因となった円安インフレをもたらしたのは他ならぬ日銀の“異次元緩和”である。次ページ以降、そのメカニズムを解説し、検証していく。