今になってみれば、「脅し」はやはり大芝居だった。アメリカに核を打ち込む、日本も標的だ、と息巻いていた北朝鮮が、小泉首相のころ秘書官だった飯島勲内閣府官房参与を平壌で歓待した。拉致問題にひときわ厳しい姿勢で臨んでいる安倍首相が送り込んだ。動機はいろいろあるとしても、北朝鮮と対話の扉が開けたら評価に値する外交である。

 飯島参与の突然の訪朝に米国は不快感を表明した。国際的な北朝鮮包囲網から日本が抜け駆けしたと受け止めている。思い出すのは2002年の小泉訪朝だ。首相自ら平壌に乗り込み金正日主席と会い、国交回復を目指す日朝平壌宣言をまとめた。あの時、米国に伝えたのは訪朝2日前だった。

安倍首相の覚醒!?

 日本の独自外交を米国は快く思わず、やがて小泉外交は挫折した。この時、北朝鮮との関係決裂に動いたのが、当時、党の要職にあった安倍晋三氏だった。約束した「拉致家族の帰国」を拒否し北の反発を招いた。小泉首相も米国の意向に逆らえなかった。以後、日本は北朝鮮外交から遠ざかる。小泉首相が敷いたレールを壊した安倍氏が、今度は修復に動いた。日朝関係を軌道に乗せるには、たとえそれが米国の不興をかったとしても日本に必要なこと、と安倍氏もやっと分かったのだろうか。

 首相の狙いは拉致された人々の帰国にあるのだろう。膠着状態の拉致問題に進展が見られれば、参議院選に向けた安倍政権の得点になる。飯島参与はかねてから「圧力一辺倒の外交では問題の解決につながらない。交渉の糸口を開くことが大事だ」と語っていた。

 焦点は「何を解決と見るか」である。拉致被害者の消息を確かめる、何人かを帰国させる、という程度を成果とするなら「日本は自国の足元だけ考える愚かな国」と見られるだろう。少なくとも2002年の「日朝平壌宣言」に立ち戻ることが当面の成果と考えるべきだろう。その内容をおさらいしよう。

「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した」と、明記されている。