どうすればお金をかけずに、売上や利益をもっと増やせるのか? この切実なお悩みに答えるのが、人気の販促コンサルタント・岡本達彦氏の最新刊『客単価アップ大事典 「つい買ってしまう」販促の仕掛け75』(ダイヤモンド社刊)です。同書は、「行動経済学×現場目線」で「つい買いたくなる」販促の仕掛けとは何かを言語化した初の書。本書が提示するのは、「お客様の購買行動そのものを変える設計とは?」です。どうすれば、「利益が残る経営」へと変われるのか? 本連載では、『客単価アップ大事典』に収録しきれなかった事例の中から、現場ですぐに導入でき、成果につながりやすい客単価アップの仕掛けを厳選してご紹介していきます。

なぜマリオット・ボンヴォイは、ポイント宿泊を「5泊」すると1泊無料にするのか?Photo: Adobe Stock

4泊分のポイントで
5泊できる特典

「マリオット・ボンヴォイ」は、世界中にホテルを持つマリオット・インターナショナルの会員プログラムです。ここには、ポイントで同じホテルに5連泊すると、1泊分のポイントがかからない特典があります。会員ランクに関係なく使えます。

 1泊5万ポイントのホテルなら、本来5泊で25万ポイントかかるところを、4泊分の20万ポイントで泊まれる計算です。

 4泊までならきちんとポイントを使ってくれるお客様に、なぜ1泊分をサービスするのでしょうか。

 販促の観点から読み解くと、狙いははっきりしています。「4泊の予定だった旅行を、5泊に延ばしてもらう」ことです。

「もう1泊する」が
「1泊を捨てる」に変わる

 4泊で旅行の計画を立てていた人が、「あと1泊すれば1泊分が無料」と知ったとします。

 4泊する 20万ポイント
 5泊する 20万ポイント

 必要なポイントが同じなら、考えることは「もう1泊するかどうか」ではなく、「タダで泊まれる1泊を使わずに帰るかどうか」になります。

 追加で払う話ではなく、受け取れるはずのものを手放すかどうかの話に変わるわけです。こう言われると、多くの人は5泊を選びたくなるでしょう。

少しずつ安くするより、
ゴールを一つ作る

 もしこれが「5泊すると5%引き」だったら、「そこまでして1泊延ばさなくても」と思う人のほうが多いかもしれません。

「1泊分が無料」となると、4泊と5泊の間にはっきりした差ができます。すべての泊数を少しずつ安くするのではなく、「ここまで来れば大きく得をする」というゴールを一つ置いているところが、この特典のうまさです。

 しかも4泊以下の人には、この特典はありません。すでに泊まってくれる人を安くするわけではないのです。「もう1泊する」という、ホテルが増やしてほしい行動をとった人だけが得をするようになっています。

タダになるのは宿泊だけ

 無料になるのは1泊分の宿泊ポイントだけです。滞在が1日延びれば、レストランやバー、スパ、ルームサービスを使う機会もそのぶん増えます。

「せっかくもう1泊あるから、明日はスパに行ってみよう」「今夜はホテルでゆっくり食べよう」となる人もいるでしょう。1泊分を無料にしても、その1日で生まれる消費まで無料になるわけではありません。

5泊になると、
旅の過ごし方が変わる

 4泊と5泊では、数字の上では1泊しか違いません。でも旅の中身はかなり変わります。

 到着日と帰る日を除けば、4泊の旅は観光で埋まりがちです。そこにもう1日加わると、「今日は何もせずホテルでのんびりしよう」という日が作れます。

 ラウンジでくつろいだり、プールサイドで本を読んだり。ホテルそのものを楽しむ時間が増えるほど、「このホテルは良かった」という記憶も残りやすくなります。

 それが、次の旅行でまた同じチェーンを選ぶ理由になっていきます。

ポイントを「使う」楽しみが、
次に「貯める」理由になる

 ポイントは、貯まっているだけでは会員との関係は深まりません。実際に使って「得をした」と感じてもらって、はじめて「また貯めよう」という気持ちが生まれます。

「次の旅行はポイントで5泊しよう」という具体的な目標があれば、そのためにまた同じチェーンでポイントを貯めようとするでしょう。

 この特典を受けるには、同じホテルに、1回の予約で、5泊続けて泊まる必要があります。ポイントがあちこちのホテルに分散せず、一つのホテルにまとまって使われる仕組みにもなっています。

続けられる特典にする工夫

 もう一つ面白いのは、無料になるのが「5泊目」ではなく、5泊の中で必要ポイントがいちばん少ない1泊だという点です。

 お客様には「1泊無料」という分かりやすく大きな得を見せながら、ホテル側の負担はある程度の範囲に収まる。特典は魅力的であることも大事ですが、長く続けられる作りであることも同じくらい大事です。

値下げではなく、
行動を変えた人へのごほうび

 ここで改めて考えたいのは、この特典が普通の値下げとは違うということです。

「ポイント宿泊は全部20%引き」にすれば、1泊しかしない人も2泊しかしない人も得をします。それではホテル側の負担が増えるだけで、お客様の行動は何も変わりません。

「5泊すれば1泊無料」なら、得をするのは5泊した人だけです。販促を考えるとき、何を安くするかより先に、お客様のどんな行動を増やしたいのかを決める。そのうえで、その行動をとった人だけが得をするようにする。この特典は、その考え方のよい例です。

他のお店でも使える
「あと1回で無料にする」しくみ

 ・スクールや教室
「5回申し込むと1回分無料」のコースを作り、受講回数を1回増やした人だけが得をするようにする。

 ・エステや整体院
「4回分の料金で5回施術」のプランを作る。通う回数が増えれば、別のメニューや商品を提案する機会も増える。

 ・レンタルサービス
「4日借りたら5日目無料」にして、利用期間をもう1日延ばす理由を作る。

まとめ

 この仕組みのポイントを整理すると、

 ・4泊と5泊の間に「1泊無料」という大きな差を作り、滞在を1日延ばしてもらう
 ・「追加で払うか」を「無料の1泊を捨てるか」という判断に変える
 ・滞在が延びることで、飲食やスパなどの消費が生まれる機会を増やす
 ・同じホテル・1回の予約という条件で、ポイントの使い道を一つのホテルに集める
 ・最もポイントの少ない1泊を無料にして、特典を続けやすくする

 といった狙いが考えられます。ポイント宿泊を全部安くするのではなく、「5泊した人だけが大きく得をする」というゴールを置く。そうすることで、お客様が自分から泊まる日数を延ばしたくなる。それこそが、この特典の本当の役割だと思います。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。