リクルートワークス研究所の研究員・アナリストとして、高齢期の就労や賃金の動向を研究してきた坂本貴志さん。新刊『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』では、19の職種、100の仕事をデータとともに紹介している。100人超のシニア就業者へのヒアリングから見えてきたのは、老後の孤独が「性格」ではなく「仕事の選び方」で決まってしまう実態だった。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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ワースト1は「人と関わらない仕事」を選ぶ人
――老後に孤独になることが、ほぼ避けられなくなる人。その特徴をひとつ挙げるとしたら。
坂本貴志(以下、坂本):定年後の仕事を「人と関わらなくて済むかどうか」で選んでしまう人です。
短期的には、とても合理的なんです。現役時代に人間関係で消耗してきた方ほど、「もう気を遣いたくない」と思う。ヒアリングでもその声は多くて、倉庫作業の方からは「人付き合いが苦手なので、ひとりで黙々と作業できる」、マンション管理人の方からは「ひとり勤務なのでマイペースで気兼ねなく仕事ができる」という声が出てきます。
――満足度としては高そうですが。
坂本:仕事そのものの満足度は、実際に高いんです。問題は、その選択が10年、20年という単位で何を生むかです。
会社を辞めた日に、人間関係の「配給」が止まる
――どういうことでしょう。
坂本:会社員として生きてきた人は、人間関係を自分で調達してこなかった、という事実があります。
会社に行けば、同僚がいて、取引先がいて、部下がいる。好むと好まざるとにかかわらず、毎日何十回も会話が発生する。これは自分で作ったものではなく、会社から配給されていたものです。定年とは、その配給が一日で止まることを意味します。
――地域に足場がない、と。
坂本:歴史的に見ると、かなり特殊な事態なんです。戦前まで、多くの人は自営業者として地域に根差した仕事をしていました。日々の仕事は、地域における活動と一体不可分だった。
ヒアリングでも、自営業だった方は違う話をされます。ある方は30代後半から町内会の活動に参加し、理事、文化部長、防災部長、副会長を歴任して、今も相談役です。ご本人が「サラリーマンだったら時間の拘束が長く、町内会活動なんてとても無理だった」とおっしゃっていました。
会社員の場合、会社を離れた瞬間に仕事と地縁の両方が同時に消える。そこで「人と関わらない仕事」を選ぶと、ゼロになった配給がゼロのまま固定されるんです。
同じ「運転の仕事」でも、人との接点はまったく違う
――では、どう選べばいいのでしょう。
坂本:本書では各職種について、「一人でするか/ほかの人と一緒にするか」というタスクの特性もデータで示しています。年収や勤務時間と違って、この項目はあまり意識されないまま選ばれている。ぜひ見てほしいところです。
ただし、職種名だけで決めつけないでほしい。たとえば運転の仕事は、データ上は「同僚との接点が少なく、ひとりで完結できる」仕事です。ところが介護施設の送迎ドライバーをしている方は、「意外に楽しいんです」とおっしゃった。
――会話が生まれる、と。
坂本:利用者さんに認知症の方も多いけれど、長期記憶は保持できる方も多いので会話ができる。「若い頃は長野に住んでたのよ」「どのあたりですか?」といったやりとりが毎日ある。
同じ運転でも、誰を乗せるかで中身がまるで違います。求人票の職種名ではなく、「一日に何回、知らない人と言葉を交わすことになるか」で見てほしいんです。
県立図書館で働く73歳の方は、こうおっしゃっていました。「家族以外の人とつながりができて、何気ない会話ができるということも非常に大きい」と。深い友情でも濃密なコミュニティでもない、たわいない会話。それが効いているんです。
「趣味を持て」「地域に出ろ」は、いちばん難しい助言
――孤独の対策として、趣味や地域活動はよく勧められます。
坂本:助言としては正しいのですが、順番に無理があると思っています。「歳を経た後に新しいことを始めるのは気が進まない」という方は実際多い。足場のないところから自力でコミュニティに入るのは、想像以上にハードルが高いんです。
シニアの就業者にインタビューしていて感じるのは、みなさん地域に根差した小さな仕事を行う中で、この課題を自然と解決しているということです。無理なく働きながら、仕事を中心に地域とのつながりを創出し、適度に体や頭を使って健康を保っている。長く続けた仕事を失って生じる隙間は、結局、新しい仕事で埋めるしかないのかもしれません。
――人付き合いが苦手な人は、どうすれば。
坂本:「ひとりでできる仕事」を選ぶこと自体は、何も間違っていません。ただ、それを選ぶなら、人と会う回路を別のどこかに必ず一本用意しておく。逆に、その自信がないなら、仕事のほうに少しだけ人との接点を混ぜておく。どちらかで必ず埋めることです。
週に2回、1日3時間の仕事でも、言葉を交わす相手がいるかどうかで10年後の景色はまったく変わります。逆に言えば、「気楽さ」だけを基準に選び、ほかに回路を持たないまま10年が過ぎたとき、孤独はもう避けられないものになっている。そこから巻き返す手段が、ほとんど残っていないからです。
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




