リクルートワークス研究所の研究員・アナリストとして、高齢期の就労や賃金の動向を研究してきた坂本貴志さん。新刊『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』では、19の職種、100の仕事をデータとともに紹介している。定年後の数年で急に老け込む人と、70代でも元気に働き続ける人。その分かれ目は、仕事選びの段階ですでについているという。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

老後に「気づいたら体が衰えている人」の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

ワースト1は「体がラクな仕事」を選ぶ人

――気づいたら体が衰えていた、という人の特徴。ワースト1を挙げるとしたら。

坂本貴志(以下、坂本):定年後の仕事を「体がラクかどうか」で選んでしまう人です。

――それは、むしろ賢明な選び方に思えますが。

坂本:短期的には正しいんです。60歳を過ぎれば体力は落ちますし、無理をすれば怪我をする。実際、人気のある条件にもそれが表れていて、マンション管理人の方からは「座りっぱなしでも立ちっぱなしでもないので、体力的にちょうどいい」という声が出てきます。

ただ、これを「動かない」とセットで選んでしまうと、数年後に効いてくる。働いているのに、現役時代より体が衰えていくということが起こります。

通勤がなくなった分を、誰も補っていない

――働いていても衰えるのですか。

坂本:会社員時代、みなさん意識せずにかなり歩いていたんです。駅までの道、乗り換え、社内の移動、外回り。好きでやっていたわけではないけれど、毎日の運動量は確保されていた。

定年でそれが消えます。そこに「座れる仕事」を選ぶと、減った分を補うどころか、さらに減る。二重に落ちるんです。

――本人は、働いているつもりでいる。

坂本:そこが怖いところです。「自分はまだ働いているから大丈夫」と思っている。でも実際の活動量は、現役時代の半分以下になっていたりする。

市役所勤務を経て、今はドラッグストアで働いている方が、こうおっしゃっていました。「じっとしていると、心も体も鈍ってしまいますから」と。この方は毎朝7時からスクールガードのボランティアをして、午前中はアルバイト、午後は畑や講座、夕方はトレーニングジムに通っています。

「お金をもらってエクササイズ」と言う人たち

――逆に、体を使う仕事を選んだ方はどうでしょう。

坂本:警備員をされている69歳の方は、「仕事のある日は1日5000歩から1万歩も歩くので、健康面でプラスになっている」とおっしゃっていました。仕事を辞めていた時期と比べて、規則正しい生活に戻ったとも。

面白いのは、その職場に資産家や有名企業出身の方もいるという話です。お金には困っていないけれど、健康のためにやっている人がいる、と。

――健康のために働く。

坂本:県立図書館で閉架書庫の出納をしている73歳の方も近い話をされていました。階段を何度も上り下りするので、「お金をもらってエクササイズできているようなところもある」と。

この方は、現役時代は相当なストレスがあって持病が悪化していたそうですが、今は前より体調がよくなっていると話していました。「運動すること、ストレスがないことが、健康に一番」だと。

――仕事が運動を兼ねている。

坂本:本書では各職種について、「体を動かすか/頭を使うか」というタスクの特性もデータで示しています。年収や勤務時間と同じくらい、ここを見てほしいんです。

事務の仕事は、データ上「体を動かす割合が低く、頭を使う割合が高い」。ストレスも、調査した職種の中で最も高いという結果でした。現役時代の経験を活かせる良い仕事ですが、体のことだけを考えるなら、別の回路を用意する必要がある。

交通指導員をしている73歳の方は、朝と夕方の勤務の間が6時間空くので、その時間にフィットネスクラブへ通っています。「通い始めたら体の調子もいい」と。仕事と運動を分けて設計している例ですね。

働ける期間は、健康な期間と同じ長さしかない

――とはいえ、無理は禁物でもあります。

坂本:もちろんです。列車見張員を5年続けていた方は、雨の日に自転車で転んで肩を骨折し、それがきっかけで辞めています。先ほどの図書館の方も、「去年あたりから脚がつらくなってきた。重い本を抱えて階段を上り下りするのが怖いと感じることがある」とおっしゃっていて、75歳を区切りに辞めることを考えておられました。

体を使う仕事には、必ず上限があります。

――では、どう考えればいいのでしょう。

坂本:定年後に働ける期間は、健康でいられる期間と同じ長さしかない、ということです。本書で「月10万円を稼ぐ」と言っているのも、健康状態が悪化するまでの期間に、毎月小さく稼ぎ続けられれば十分だという前提に立っています。

だとすれば、体を動かす仕事を選ぶことは、単に健康にいいという話ではない。働ける期間そのものを延ばす投資なんです。

逆に、ラクさだけで選んで動かなくなると、衰えたときに初めて気づく。そのときにはもう、選べる仕事の幅も狭くなっている。後から取り返しにいくのが、いちばん難しいのがこの分野です。

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。