私はカツラーです。

 カツラをかぶって生きています。いまは快適なカツラー・ライフ。だから明るく「カツラだよ」と言いふらしていますが、以前は苦痛の日々でした。

 東京の冬は、ちょっと寒いけど毎日青空でうれしい。雪国生まれなので、1月、2月に土が見える生活なんて夢のよう。でも乾燥しすぎるのは、カツラーの大敵。

 ドアのノブや誰かの手に触れたとき、静電気でピリッとしびれた経験は誰もが持っているでしょう。冬は乾燥の季節です。これがカツラにも思わぬ影響を与えます。

 言うまでもなく、カツラの毛に毛根はありません。私が使っているのは人毛。誰かの毛をいただいて、製品に加工したわけです。

 人間の髪だって、下敷きをこすって頭に載せれば総立ちになって、みんなで笑い合った経験、小学校のころありませんか? 毛根がない分、生えている髪以上に乾燥するのでしょうか。うっかりすると、カツラのてっぺん、何本かの遊び毛がゆらーりゆらーりと、頭上で天を指し、ダンスを踊ることがあります。ムーミンに出てくるニョロニョロみたい。

 まっ、気にしなければ楽しい頭上装飾ですが……。自毛だったらそこまでゆらゆらなびくかどうか。

(小林さんの髪、なんか変)

 と思われたら一大事です。カツラを内緒にしていたころの話ですが。だからもう、冬はしょっちゅうトイレに駆け込み、水道の水を指に取って頭にペタペタ塗っていました。