画面に映る凄惨な光景にモザイクはなかった

 食事後に末弟のオマルが、パソコンのハードディスクに保存していた映像を見せてくれた。アルジャジーラで放送された番組らしい。イスラエルの戦車隊で破壊されるガザ地区の街並み。銃撃される子どもたち。地面に転がる家族の焼死体。そんな凄惨な光景が、すべてモザイクなしで放送されていた。

「日本人はパレスチナ問題に関心を持っているのか」
 デザートのアイスクリームを手にしながら、マッハムートが訊ねてくる。
 「……正直に言えば、関心を持つ人はあまり多くないと思う。もちろん、イスラエルのやり方に違和感を持つ人もいるけれど」
 「日本政府は?」
 「複雑だよ。簡単には言えない」
 「みんなそう言う」
 そう言ってファラースは、しょんぼりと俯いた。
 「メディアが何よりも重要だ。でも西側のメディアは、なかなか事実を伝えてくれない」

 画面にはイスラエルの戦車に踏みにじられたパレスチナの子どもの死体。立ち尽くす男たち。泣き叫ぶ母親たち。

「……味方をしてくれと言うつもりはない。でも現実を知ってほしい」

 オマルが言った。全員が黙り込んだ。僕も何を言えばいいのかわからない。壁の時計を見れば、時刻はそろそろ午前2時。眠る前にシャワーくらいは浴びたいと言えば、任せろとばかりに大きくうなずきながらファラースは小走りに部屋から出て行って、20分後に汗まみれになって戻ってきた。なぜかにこにこと嬉しそうだ。案内されたバスルームは、コンクリート打ちっぱなしの小さな個室だった。バスタブはない。シャワーだけ。湯は出ない。まあそれは当たり前。東南アジアやアラブの住居では、バスタブがあるほうが珍しい。ところがアルヘンリー家のバスルームの床には、10個ほどのプラスティックのバケツが並べられていて、中には熱いお湯がたっぷりと入っていた。